Ⅴ 外道の隠修士(1)

 マルクが露華のもとで内弟子生活を始めた数日後のこと……。


「――クソっ! ジャンの野郎とあの小娘、運よくミカルに勝てたからって調子に乗りやがって! 雇ったチンピラどもは役立たずだったし、このまんまじゃどうにも腹の虫がおさまらねえぜ!」


 その頃、露華に自慢の奴隷ミカルを倒されたサリュック・ダッソーは、その怒りから荒れに荒れていた。


「おまえもおまえだ、ミカル! あんなチビの小娘になんだあの様は!」


「スミマセン……」


 その苛立ちからサリュックは、ようやく露華にやられた怪我も癒えたミカルに八つ当たりをして罵倒する。


「こうなりゃ奥の手だ……ミカル、おまえに力を与えてやる。リベンジマッチといこうじゃねえか」


 そうしてミカルを連れ添い、サリュックが訪れたのは、モンパルナッソー地区の片隅にある、うらぶれた飲み屋だった。


「よお、エマングワイ。調子はどうだ?」


 店に入るとサリュックは、奥の席で〝タロット〟のカードゲームに勤しむ四人の男達のテーブルへと近づき、その中の一人に声をかけた。


「なんだ。サリュックか……調子か。ま、調子はこんなもんだ。フラッシュ」


 その男――修道士の黒いローブを身に纏う、血走った眼のその人物は、そう短く答えると手にしたカードをテーブルの手前へと放り投げる。


 見れば、数字はてんでバラバラながらも、すべてのカードが小アルカナ・・・・・のペンタクル札で揃っている。


「クソっ! ツーペアだ」


「俺はワンペア」


 すると、カタギの商売人には見えない他のゲーム参加者二人も、溜息混じりに各々のカードを卓上でオープンにする。


「フン……」


 それを見て、自らの勝利を確信し、口元を悪どく歪めるエマングワイという男だったが。


「じゃ、俺の勝ちだな……ストレートフラッシュだ」


 最後に残る一人、キザにつば広帽をかぶった、いかにもなギャンブラー風の男がそう言ってカードを広げて見せた。


 こちらは小アルカナの〝ソード〟で統一された札が、数字も7・8・9・10・小姓ペイジと順番も揃っている。


「チッ! これでオケラだ! 神よ! なぜに我を見捨てたもうた!?」


 より強いを作ったギャンブラーが各々の前に置かれたコインを回収してゆくと、修道士姿のエマングワイは大仰に天を仰ぎ、芝居がかった調子で嘆いてみせる。


「おい、サリュック、金を貸してくれ。明日には倍にして返すからよう」


 そして、考える間もなく、偶然居合わせた友人に躊躇なく借金を具申する。


 もう、今すぐこのゲームに使おうとしていることまるわかりだ。どうやら相当のギャンブル依存症らしい……。


「ああ、いいぜ。貸すといわずにくれてやる。ただし、一つこちらの頼みを聞いてもらってからだ。例のアレ・・・・を使った仕事を頼みたい」


 こうした場合、断るのが普通の反応であると思われるが、しかしサリュックは二言返事で了承すると、その条件として彼にある仕事を依頼する。


例のアレ・・・・か? ……フン。敬虔な修道士としてはなんとも心苦しいが、懐具合の淋しいみぎり、我が破壊の罪も神様は許してくれるっだろうさ」


 サリュックのその言葉を聞くと、エマングワイは俄かに血走った眼を鋭くし、冗談めかした言葉でさらに悪どい笑みをその口元に浮かべた――。

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