第7話 フクモリ

フクモリは、小学校低学年時代の担任教師。

40代で化粧の濃い、感情的で声の高い小柄な女だった。



わたしは生まれつき下顎が少し小さく、舌っ足らずだったせいもあり

7の掛け算が苦手で、なかなか覚えることができなかった。



いまでも、

はひふへほとか、さしすせそと言うのに、少しストレスを感じる。



フクモリは、わたしの7の段を聞いて苛立つらしく、ことあるごとに

授業中、わたしを馬鹿にし、からかっていた。



ある日。

職員会議が終わったらテストするから7の段が綺麗に言えるまで

放課後残って待ってろ。


と、フクモリに言われたので、暗い教室で99を唱えつつ、

フクモリを待っていたが、来ない‥。


気づくと、21時だった。


それから少しして、心配した親が学校に迎えに来たが、

フクモリを待たなければいけないので、帰るわけにはいかない。

と、親に伝えたところ、フクモリは職員会議後早々に帰宅して

いたこともあった。




そんなフクモリが担任で、あまりにも酷いと思ったことがある。


クラスメイトのホッタ君。

家が農家で、ウルトラセブンが好きな少年だった。



ホッタ君の家に遊びに行くと、ニコニコしながらたくさんの

ウルトラマン人形や消しゴムを見せてくれた。


彼の家は玄関や台所が土間になっており、外が暑いのに中に入ると、

少しひんやりしていて、炭と土の匂いがしたことを思い出す。



フクモリは、ホッタ君も、あなホッタと言いからかっていたけれど、

彼が野球をやりはじめたら、からかう事はなくなった。


給食の時間。

みんな昼休みをたっぷり遊びたいので、給食を早々に食べ、食器入れに

自分の食器を詰め込んでから、机を教室の後ろにひき、校庭に繰り出す。



その日、ホッタ君は体調が悪かった。



わたしがごはんを食べ終えても、ホッタ君のお膳はほとんど減って

いなかった。


みんなが食器を返却する時間になっても、ホッタ君は苦しそうに

食事と向き合い、教室に残っていた。


フクモリは色々考えていたのだと思う。

昼が終わると給食センターに食器を返さねばならない。自分の生徒に

出したご飯を全部食べさせねばならない…。




午後の授業前に、事件が起きた。


フクモリは自分の椅子から立ち上がると、ホッタ君の食器を奪い、

食器の乗った盆に残されていた食物や納豆、みそ汁、牛乳を

べちゃべちゃとこぼし、ホッタ君にそれを食えと言った。


白ベースに茶色のいろいろなものが浮いている。

とても食べ物とは思えないもの。


みんなびっくりしたが、フクモリが怖くて何も言う人はいなかった。


フクモリに睨まれたホッタ君は、泣きながら食べていたが、

気持ち悪くなったらしく、盆に食べたものを戻した。



フクモリは忌々しくホッタ君を見下ろし、

吐いたものを食べるよう命令した。


その後、泣きながらホッタ君がすべて食べきると、

フクモリはホッタ君を誉めていた。





20年ほど経ったとき、フクモリの噂を聞いた。

今は中学校の教員をしているが評判が良くないという話だった。

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