第4話 サウスウエスト

子どもの頃、月に一回親戚が集まりレストランで夕食をとっていた。



その日は、国道沿いにある味の街・サウスウエストという、

レストラン街で中華料理を食べることになった。


チャーハン、ラーメン、餃子をいただいた。

おいしかった。



夕食が終わり、

店を出てすぐに、叔母がトイレに行きたいと言い始めた。



トイレに行きたい人は、ハイと言って手を挙げる。

男で手を挙げたのは、わたしだけだった。



ウエストのトイレは、店舗と離れた薄暗い駐車場の奥にあり

少し、こわかった。




叔母から、心細いだろうから女子トイレに入りなさい。

と言われたが、はずかしかったので、ことわり、男子トイレに入った。


トイレはコンクリート作りで壁と床に陶器のタイルが貼ってある。

タイルは全体的に少し濡れていたので、掃除した後だったのかも

しれない。


個室に入った。

ウォシュレットも、座るタイプの便器もない、しゃがむタイプ。

床や便器は掃除されていて、きれいだった。



安心して便器にしゃがむと、目の前の壁の水道管の上あたりに

大きなラクガキがある。



30センチくらいの範囲に、黒いマジックで乱暴に女の絵が描いてあった。


身体は反対側。首だけ振り向き、くちを開けたままこちらを見ている絵だ。


下手な絵だったが、なんだか気持ちが悪いので、顔を伏せて、トイレを終えた。




顔を上げると、絵があったはずの場所はただの白いタイルの壁があるだけ‥。



不思議に思い、なにげなく右手にある扉の上を見た。


すると、わたしの右後ろに絵の女が立っていた。


30代くらいの白い肌のおばさん。

肩より少し長い髪がぬれている。

ブラウスの上のほうもぬれている。

おばさんは口を開けたまま、大きくにごった眼で、わたしをにらんでいた。




震えながら顔を伏せると、女の黒く汚れた足が見えた。

白い足の爪が黒かった。

吐き気がする。目を閉じた。




しばらくして眼を開けると女の足が見えなかった。


顔を上げると女がいなくなっていたので、トイレから走って逃げた。



両親から何かあったの?、と言われたが、話さなかった。

うかつに話すと絵の女が出そうな気がした。





あの時に見た女の眼と足は今でも憶えている。

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