2話


「こんな夜更けにダレ…? こわい…」


 おさごは武器にシャモジを持って…おそるおそる戸へ…


「どなたさんですか…?」


夫 「わしじゃ! 開けてくれ!」


「え、あなた!? すぐに開けます!」


 おさごは戸のつっかえ棒を外し、夫を家にあげた。


「あなた紀州へ行ったんじゃないんですか?」


「あの坊主が、1日で行ける言いよったけど、ハラが減ったもんやき戻ってきたぜよ!」


「まぁ…」


「おさご、悪いが明日また紀州に向かうき、おにぎりを増やしてくれんかの~」


 おさごは少し考えて、

「わかりました…なんとかしてみます…」


 夫は腹をさすりながら、

「それとハラが減っちゅうき、なんか食うモンないか?」


「稗(ひえ)ガユの残りがあります」


「ハラに入ったらなんでもえいわ。それと~今日みんなに見送ってもろうて、明日もまたじゃ、面目ないから明日はコッソリ出て行くき…」


「はい…」


 おさごは夫に ご飯を食べさせて、二人は床につきました。


 翌朝…

 おさごは隣の六助の家へ行った。


 🌞✨ ☁


 🏠👩💦~🏡_


おさご 「すいませ~ん」


六助 「なんじゃ、おさご、なんか用か?」


おさご 「じつは…夫が昨夜に帰ってきて、おにぎりを増やしてって言うけど…ウチにはもうご飯がないんです…」


 六助は腕を組んで何度も頷いた後、

「わかったぜよ…他ならぬ、おさごの頼みやきね~」


「ありがとうございます!」

 おさごは何度も頭を下げた。


 なんとか、室戸岬の村人達に工面して貰い、昨日の3倍のおにぎりを用意した。

 

 その日のまだ午前、おさごと夫は二人で浜へ…



夫 「よしよし、コレだけ飯があれば大丈夫やろう。すまんな~」


おさご 「…」


夫 「どうしたぜよ? そんな、うかないカオして?」


おさご 「あなた、気をつけて。オナカが空いたらいつでも帰ってきてください」

 

夫 「大丈夫や…今度は必ず紀州に行くで」

 真顔で、おにぎりの入った風呂敷を見せて、

「おにぎり…ほんとにすまんな」


おさご 「あなた…」

 おさごは寂しげな声と顏だった…


 夫は再び、紀州に向かうために舟を出しました。


  ☁☁  🌞  🐤~


⛰=⛵__🐟___🌊


 室戸岬を出船して3日後…

 夫は漂流していました…

 360度、水平線を見回した後、不安の汗を流しながら、

「三日たったぜよ…そもそも紀州なんて国はほんとにあるのか…?おにぎりも…もう食べてしもうたし…しょうがないアレをヤルか…」


 夫はハリにヤドカリをつけ、海にサオを振った。


「こうなりゃ、自給自足ぜよ!」


 直後! すぐにアタリがきた!


「お、ワレながら自分の腕前にほれぼれするの~♪ 何が釣れたかの~♪」


 釣れた魚はサバ。

 間近でそれを見て…

「うっ…釣れたのは良いが、よりによって、いつものコイツかい!」


 サバを見ていた夫の脳にひらめきが!

「そうじゃ!! コイツ(サバ)を餌に大物を狙うんじゃ!!」

 

 夫は欲張ってサバのついたまま、サオを振った。

 直後!

 すぐにアタリがきた!


「!! でかい! かなりの大物じゃ! こんなでかいのは初めてじゃ! …よし、背びれが見えてきたぜよ、もう少しじゃぁぁぁん? アレはまさか?」


 サバに喰いついたのはサメでした。


「サメじゃ!!」


 すぐに、

 サメの力の前に竿を持っていかれてしまった…


「しもうた、サオを持っていかれた~~どうしよう…」


 やがて…

 夫の小舟の周りを…

 大きなサメの群れが囲みました…

 色々と絶望的な状況に…

「竿も無くなってもうたしぃ…サメの群れに囲まれたしぃ…おさごよ…ワシももはやここまでかもしれん…『サバをすて サメにかこまれ ふねのうえ』」


 夫は辞世の句を唄い、死を覚悟しました…


 その時、

 遠くに人の声らしき音が聞こえました。

 夫には天からの救いの声、

「こりゃ~人の声じゃ!ワシ助かるかもしれん!・・・なんじゃ!あれは!」


 声のする方を見ると…

 20メートルはあるクジラを、

 13隻の船に乗った漁師が捕獲しているトコロでした。



      🌞 ☁  🐤~


  ~~🐳⛵⛵⛵=~~



 夫は興奮して、

 「すごいぜよ!あんなでっかいクジラを!」


 漁師達は樽のついたモリをクジラの体中に投げ刺してました。


「な、なんちゅう、無駄のないうごきじゃ!」


 クジラのうごきが弱まってきたところに、一人のモリを持った若者が舟からクジラの背中に飛び乗り、頭に向かい走りだした!


「なんちゅう命知らずな!!」


 クジラの頭にモリを振り下ろし!!


若頭  「南無阿弥陀仏!!」


 辺りの海は血で真っ赤に染まった。



「これが、おさごの言いよったクジラの漁法かの~? すごいの~迫力があったの~ あ? 感心しちゅうヒマやなかった、おーーい!! 助けてくれー!!」


 大きく両手を動かし! 救助を求めた!




    ・・クジラ漁の舟・・




漁師A 「若頭! おつかれさまです! こんだけでけ~の捕まえたら、網元も大喜びでしょう!」


若頭 「ああ! みんな! 今夜はとことん酒を飲むぞ!」


漁師達  「おー!!」


 その時…

 漁師Aは 夫の存在に気付きました。


漁師A 「あれ? あんなトコに小舟に乗った人が? さては浜に置いてあった舟に酔っぱらいが眠って知らん間に、ここまで流されたんやな? 若頭どうしますか?」


若頭 「困った時は、お互い様や」


 若頭の舟は、夫の舟のもとに漕いで行きました。


若頭 「大丈夫か?」


夫 「はい~大丈夫ぜよ。 しかし、あなたさん、男前でガタイもえいし、えい根性もしちゅうな?」

 若頭の横で船を漕いでいた漁師Aが、

「そりゃ、この人は若いけんど、紀州一の羽刺(モリ打ち)やで~当たり前やん…ところで若頭? このオトコの言葉は紀州のもんやないみたいですけど、役人に知らせますか?」


 夫はペットショップの豆柴の様な目になり、

夫 「え~そんな~」


 若頭を見た。

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