おさご 〇絶世美女とダメ夫✖
びしゃご
1話
室戸岬のおさごの家の戸口で夫が、
「おさご! 今日はでっかい魚を釣ってきて! おまんに食べさせちゃうき!」
妻のおさごはいつもの笑顔で見送る。
「あなた、今日は天気が崩れそうやき、気をつけてくださいね♪」
夫はぎゅーっとおさごを抱きしめて、
「ほんじゃ~今日はおさごと一日中まったりとしよろうかの~♪」
おさごは困った顔になり、
「まあ、あなたったら…ワタシもそうして居たいけど、でも食べる物がウチにはもうないんです」
「そうじゃの~でっかい魚が釣れたら、すぐに戻るき!」
「いってらっしゃい」
夫は軽やかに「ま~ぐろ♪ ま~ぐろ♪」と口ずさみながら漁へ行った。
🌞 🌈☁
🌲🌲🏡~👦♪___⛵
おさごが夫を見送って、しばらくして…
山内家大名の一行がおさごの家の前を通った。室戸岬の村人がそれを出迎えていた。
☁ 🌞 🐥~
🌲🌲🏡👬👬👬__🏇🏇🏇🏇🏇~_
水汲みの帰りに、それ見たおさごは、
「大名行列…? おでむかいをせんと…」
・・大名行列・・
馬に乗り進む30半ばの土佐藩主に、傍にいる側近が、
「殿! 室戸岬の海はまことに優雅でございますなぁ」
「うむ、まことに天晴れじゃ!……!?」
「殿、室戸岬の地元の民が家から出て出迎えておりますぞ」
「……」
急に口を開けたまま絶句した土佐藩主は 近くの出迎えの民の方を一点に見ていました。
「殿、どうされましたか? この優雅な景色ではなく、なにゆえ民の方ばかり…?」
口を閉じて、目をパチパチして目を凝らしだした藩主を見た側近は、
「さては……? 殿を睨みつけるふとどきものがおるのですか!!」
その時…
土佐藩主の口から…
「ワシはおまんが気に入ったぜよ…」
土佐藩主はボーっと立っていたおさごを力強く指差し!
「そこの女!名はなんと申す!」
びっくりしたおさごは、すぐにひれ伏して!
「わ、わたし~おさごで、です! すみません!」
「おさごか? 変わった名前じゃのう?」
「はい~すいません!」
「ワシはおまんを側室としてむかえるぜよ!」
おさごは鳩が豆鉄砲を食ったような顏で、
「へ?」
土佐藩主は言いました。
「ワシは参勤交代で3年の間、江戸に行かねばならぬ。土佐に帰って来たらおまんを側室にむかえるぜよ!」
それを聞いた、おさごはすぐに! 焦って!
「勘弁してください! わたしには主人がいます!」
「ほ~ワシの求婚の申し出を断ると申すか?」
土佐藩主は怪しげな笑みを浮かべました…
「まあよい…無理にとは言わぬ3年後また、あらためておまんのもとに来るぜよ…」
「すいませんです!」
おさごは何度も頭を下げた。
こうして、大名行列は東の方に消えた。
夕方になり…
「おさご! 帰ったぜよ!」
「あなた、お帰りなさい…」
「となりの六助から聞いたけど! おまん! お殿さまに求婚の申し出をされたらしいやないか!?」
「そうなんです…」
夫は「ごく」っと唾を飲んだ後、
「で、どうするぜよ…?」
「そうね~お殿さまの嫁っ子になれたら、おいしいご飯や、きれいなべべ(着物)も着れるし、つらい水汲みや海女仕事もせんでいいんですよ♪ それにお殿さまの言う事を聞かざったら、打ち首モンって六助のヨメが言いよったし、やっぱりワタシ行こうかしら…」
「それはないぜよ! せっかくおさごのためにでっかい魚(サバ)を釣ってきたに~、それにワシはおまんが生きがいやに~行かれたら困るぜよ!」
夫の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
おさごはその悲しい目を見て…
「本当に困ったね~」
その翌日…
室戸岬の先端のみくろ洞に土佐一の高僧が弟子を連れて修行に来ました。
弟子 「さすがは室戸岬ですね~きれいですね~」
高僧 「未熟者!! あたりまえじゃ! この素晴らしい風景から『空海』様も感じられたものがあるのじゃ~…お前はまだまだ修行がたりん…」
弟子 「すいません…ですが、さすがは師匠です、空海さまがみくろ洞でされた「1000日の業」を師匠もされるとは。」
(注:「1000日の業」とは弘法大使空海がみくろ洞で1000日間修行をして悟りを開いたという。空海の名はみくろ洞からの眺めから思いついたという。)
高僧は海を目を細め見て、
高僧 「ワシは空海さまがこの土地、この室戸岬、このみくろ洞でなにを感じ取り、なにを悟ったかを知りたいのじゃぁ…」
感銘を受けた弟子は、高僧を目を細め見た。
弟子 「さすがは師匠…」
そんな弟子をニヤリっと見て、
高僧 「今日から1000日間は空海さまにあやかり、禁欲生活じゃ~…はたして若いお前にガマンができるかの~」
弟子 「師匠…自分も1000日の間に自分なりに何かを感じとりたいと思い、お供を願い出たのです…」
高僧 「うむ、良い心がけじゃ…」
二人はみくろ洞の中で座禅をくみました。
その直後。
高僧 「は! あれは!?」
弟子 「師匠! あれは!?」
二人はなにかを見つけました。
弟子 「師匠ー! あれはバケモノー!」
高僧 「う、ワシもはじめっ…久しぶりに出会うた…」
なんと二人は…
洞窟の外に まっ黒なカオの妖怪を発見しました。
弟子はガクブルで!
弟子 「師匠! 早く退治をお願いします!」
高僧 「うむ、ワシの呪文で退治してやろう。ワシの呪文は土佐一じゃ。お前もついてこい。」
弟子 「はい…」
二人はみくろ洞から出て妖怪に10メートルの距離まで近づきました。
弟子は高僧を盾にして、
弟子 「師匠!お願いします!」
高僧 「だまっておれ!」
高僧は気合を入れて呪文を唱えました!
高僧 「リン・ピョウ・トウ・シャー・カイ・チン・レツ・ザイ・ゼンー!!(あれ? 全然効いてないぞ? どうしよう…)」
妖怪 「うん?」
妖怪は二人の存在に気づき、近づいてきました…
弟子 「あわわ…逃げろー!! 喰われる=!」
弟子は師匠を残し、一目散に逃げました!
死を覚悟した…高僧は…
高僧 「アヤツ(弟子)め…わしももはやここまでか…? 南無…」
妖怪はさらに近くに…
高僧はいさぎよく!
「わしの負けじゃ! 煮るなり喰うなり好きにせい!」
がんぐろおさご 「お坊さん、さっきからにぎやかにしゆうけど、ひょっとしてわたしを妖怪に間違いました?」
妖怪の正体は顔に墨を塗ったびしゃごでした…
安心した高僧は、
高僧 「おぬしは妖怪ではなかったか? ほっ… 間違えてすまぬ、本当に恥ずかしい限りじゃ…ところでどうして顔に墨など塗っておるのじゃ?」
悲しい顏になったおさごは…
がんぐろおさご 「じつは夫にされました…ところで何処かえ走っていった若いお弟子さんを探さなくていいんですか?」
高僧 「気にしなくてけっこう、アイツは破門じゃ、もう戻ることもないだろう…」
がんぐろおさご 「はぁ~なんか、すいません」
高僧 「その顔なにか深いワケがありそうじゃの~わしに話てくれんか。」
がんぐろおさご 「じつは…」
おさごは高僧に昨日の事を話しました。
高僧は少し考えて、
高僧 「ここから遥か東の紀州の国にクジラを捕らえる方法があるらしいぞ…」
がんぐろおさご 「クジラってあの大きい岩くらいの魚ですよね!」
おさごは近くに見える大きな岩を指差しました。
高僧 「そうじゃ、あの岩くらい大きな魚じゃ」
がんぐろおさご 「わたしも見たことがあります」
高僧 「そうか、しかしあの岩は大きいの~あの岩の頭からの景色も良いかもしれんな~」
がんぐろおさご 「お坊さん! あの岩はココで一番大きな岩やき、足でも滑らせたら大変ですよ!」
高僧 「ははは、さようか、ところで話は戻るが、その紀州の国には大きな網を海底に張り、その網を引き、その一帯の魚を一網打尽にとる漁法もあるらしいぞ」
がんぐろおさご 「ほんとうですか!」
高僧 「おぬしの夫に教えてやったらどうだ?」
がんぐろおさご 「ありがとうございます!」
高僧は優しい顏で…
高僧 「これで、おぬしの顔に墨を塗ろうなど、くだらん事を考えなくなるだろう」
がんぐろおさご 「はい…」
高僧はおさごの肩を優しく叩き、
高僧 「よしよし…ではそこの「行水の池」で顔の墨を落とし、帰って夫にその話を教えてやるがよい…」
(注:「行水の池」とはみくろ洞の下にあり弘法大使空海が1000日の業のあいだソコで身を清めていたという。)
二人は「行水の池」に行きました。
がんぐろおさご 「お坊さんのおかげで助かりました。ありがとうございます!」
高僧 「あたりまえの事をしただけじゃ…」
腰を下ろし、おさごは顔を洗いました。
洗い終え、高僧に顔を向ける。
高僧 「!!!」
おさご 「お坊さん、ワタシの顔の墨はちゃんと取れてますか?」
高僧 「鼻の先にまだ少しついておる…」
おさご 「あらら、そうですか……これでどうでしょう?」
高僧 「うむ、大丈夫じゃ…ところで、おさご?」
おさご 「はい?」
高僧 「いまワシが話した事だが…」
おさご 「クジラの取り方とかの話ですか?」
高僧 「そうじゃ。 …3年後、土佐に大名が帰る前に、おぬしら夫婦の生活が楽にならねばならん。しっかりとした旦那なら…大名もきっと納得してくれるであろう。 だから、ワシの言った話をすぐに帰って教えてあげるのじゃ」
おさご 「はい!」
高僧 「よしよし…そして、すぐにでも夫を紀州にクジラの漁法を学ばせにゆくのじゃ…」
おさごは驚いて!
おさご 「紀州にですか!?」
高僧 「そうじゃ…早く夫に学ばせに行くように言うのじゃ…」
おさご 「はい!」
おさごは急いで家に帰り、家の戸の前に…
その時、
家の中でゴロゴロしてる夫の独り言が聞こえました…
「う~ん、うむむ…なんぼ考えてもこの魚(サバ)を釣る方法しか思いつかんぜよ! 村の五助も六助も知らん言うしの~しょうがないの~おさごには、ずっと顔に墨を塗っといてもらうか!!(爆笑)」
おさごはバン!と戸を開き!
「あなた!!」
「お♪ おさご、水汲みから帰ってきたか、おつかれさん♪」
寝ている夫の横に正座で座り、
「あなた、みくろ洞にいたお坊さんから、良い事を教えてもらいました」
「どっ、どうしたぜよ、急に…?」
おさごは夫に 高僧から聞いたことを伝えました。
「そんなこと言われても~、国抜けは重罪やし~、紀州ってどこにあるか知らんし~、それやき、ワシは行きたいけど、行けれん」
「ほんとやね~困ったね~、もう一度、お坊さんに相談してみます…」
翌日…
おさごは みくろ洞の高僧の元に相談に行きました。
高僧 「どうしたのじゃ、その顔は?」
がんぐろおさご 「じつは…」
おさごは昨日の家での事を話ました…
高僧 「さようか? おさご、ワシは良いことを知っておるぞ」
がんぐろおさご 「おしえてください!」
高僧 「うむ、紀州(和歌山)は…この室戸岬のすぐ東じゃ…」
がんぐろおさご 「あれ? 確かお坊さん…?_遥か東って言ってませんでした?」
高僧は毅然とした態度で、キッパリと、
高僧 「ワシはそんなこと言ってないぞ。(キッパリ)」
がんぐろおさご「そうですよね」
高僧 「うむ、幸いなことに、この室戸岬の沖を流れている海流は東の方へ、つまり紀州への流れなのじゃ…」
がんぐろおさご 「そうなんですか!!」
高僧 「紀州は近い…夫の持っておる小舟に乗れば1日もあれば紀州に行ける。 帰って夫に出発の準備をさせるのじゃ…」
がんぐろおさご 「はい! …あの~帰りはどうしたら? 国抜けは重罪なんですよね…?」
高僧 「じつはワシは土佐では名の通った坊主でな、熊野参りの為という事でワシの朱印があれば、許される。 ただし、帰りは必ず熊野神社のお札を貰ってくるのじゃぞ。それで大丈夫じゃ」
高僧はおさごに高僧の朱印を押した熊野詣の証明書を書き、渡しました。
手に持ったおさごは深々と頭を下げて、
「本当にありがとうございます…なんとお礼を言ったらいいのか…」
「あたりまえのことをしただけじゃ…」
おさごは家に帰り、
夫に、高僧から聞いた話を教え、高僧の証明書を渡しました。
夫は証明書を手でヒラヒラさせながら、
「ワシの舟で1日で行ける~? コレがあったら関所を通れる~? 本当か~?」
「はい、みくろ洞のお坊さんが言ってました」
「だいいち、その坊主は信用できるのか? あやしいモンぜよ…」
夫の言葉に不快感を表しだしたおさごは…
「あなた、わたしにずっと…この顔でいろって言うんですか?」
イライラした感を出した。
その姿に、
「いや…そういうわけやないけど~ワシも収入が良くなる方法をいろいろと考え中ぜよ…」
「あなたに、いい考えがあるんなら、教えてください」
夫はあぐらで腕を組み…
とても長い沈黙が続いた…
「あなた…紀州に行ってください」
「うん…」
翌日…おにぎり3個と水と証明書を持ち、
夫は 自分の小舟のある海岸に行きました。
夫の送り人に…
おさごと高僧と、漁師仲間の五助と六助が来ました。
おさご 「あなた、必ず帰って来てね!」
夫 「あぁ…」
五助と六助 「紀州っちゅうトコで漁法を覚えたら、わしらにも教えてや!」
夫 「おう…」
笑顔の高僧は夫の前に立ち、
高僧 「よし! ワシが海上安全のありがたい呪文を唱えてやろう!」
夫 「ありがとうございます…」
高僧 「南無阿弥陀仏!!」
夫 「…」
高僧 「よし、これで安心じゃ…」
夫は高僧に頭を下げた後に、
夫 「何から何まですいません…」
高僧 「あたりまえのことをしただけじゃ…」
夫はみんなに別れを告げ、小舟に乗り遥か沖の方へ…
速い海流のせいか…
すぐに、小舟が見えなくなりました。
五助と六助 「あんな舟で大丈夫かね~? 波も荒くなりそうぜよ…」
おさご 「大丈夫かしらね~?」
高僧 「心配するな、大丈夫じゃ!」
その夜のおさごの家…
おさご一人なので、つっかえ棒で閉めていた戸をたたく音がしました。
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