06 love,

「忘れられるわけ、ない」


 彼女。


 ぽろぽろと、泣き出しはじめる。


「あなたはわたしのことを知らないから、忘れてなんて簡単に言えるけど」


 涙を強引に拭っている。


「わたしは。あなたを忘れたことはない」


 彼女。


「陸上競技部のエースで。あなたに近付きたくて。わたしも走ってきたのに。あなたは急に。いなくなって。わたしだけが残されて。それでもいつか、いつか会えると思って。ひっしに走って。ここで。この場所で。会えたのに」


「まさか、同じ高校か」


「あなたのひとつ下。ずっと見てた」


「参ったな」


「ここで会ったとき。奇跡だと思った。わたし。ようやく、走って、たどり着いたと、思ったのに」


「すまない。脚がなくてな」


「脚がないから何よ」


「いや」


「脚なんかよりも、わたしのことを知らないほうが、わたしはショックだった。見知らぬ、初対面と、これまでずっと」


「初対面だけど、お互い、分かり合ってる気がしてた。友達でも恋人でもないけど、脚のことも気にせずに、隣で走ってくれたことが」


「わたしはいや。友達になりたい。時間はかかっても、恋人がいい。脚なんて知らない」


「知らない、か」


 彼女。気付いたようなしぐさ。


「ごめんなさい。脚がない、ことが、あなたにとって」


「いやいい」


 義足を、もういちど取る。


 よろめいた。片足だと、さすがにしんどい。


 彼女が、支えてくれる。やさしい、腕。


「車に乗せてくれ。走りすぎて。つかれた」


 彼女に支えられて、車に乗った。

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