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「事故でね。膝から下をやられた」


 義足を、手でぶらぶらさせる。


「車に突っ込まれた。だから、車は今でもこわい。乗れない」


 自分が彼女を知らないように。


 彼女も自分を知らない。


「俺は、普通に走ってるわけじゃないんだ。義足をつけて、それを隠して、走っている」


 普通の彼女とは。


 これ以上の関係になることはない。


「俺のことは、もう忘れてくれ」


 義足をはめ直す。


「俺には、走るための脚がない。あなたの期待には、応えられない」


 疲労と義足の状態を、確認する。


 大丈夫。


 走れる。


 ひとりでも。

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