第6話:枢機卿会議1・聖女ローゼマリー視点

 私の前には二十一人の枢機卿が並んでいます。

 一様に難しい顔をしているのは、私のために教会を危険にさらしたくない、教会の利益を損ないたくない、そう思っているからです。

 天罰をちらつかせて脅すのもいいですが、居直られて天罰が下せなかった時が危険ですから、思い切るのが難しいのです。


「さて、皆さまに集まってもらったのは他でもありません。

 ウェールズ王国が教会におこなった無礼にどう対応するかです。

 対処を誤れば、歴代の教会関係者が血の涙を流して築き上げてきた、教会の威信が凋落してしまう事でしょう」


 さて、このまま一気に投票させて勝てるかどうか。

 ライラ派は病気を理由に一議席を正統派に譲ったから三議席しかない。

 譲られた正統派が二議席で、ライラが裏切らせた前教皇派が七議席。

 敵対している第二派閥のフレディ派が五議席。

 少数派が集まって作った諸派連合が三議席。

 前教皇派で唯一寝返らず、独りでいるジャックが一議席。

 票読みでは最低でも十二対九で、最高なら一五対六で圧勝のはず。

 だが投票が私を追い出す好機と考えれば、〇対二一の完敗で終わる可能性もある。


「枢機卿二十一人の派閥」

ライラ派 :三人

寝返り  :七人

正統派  :二人

フレディ派:五人

諸派連合 :三人

前教皇派 :一人(ジャックだけが残る)


 そうだ、天罰を下すと言って下せなかったら袋叩きにされるが、何も言わずに本当に天罰が下せるかどうか試したら、全く実害はない。

 もし天罰を下せれば、圧倒的な力を手に入れられるし、下せなくても今まで通り。

 これはいい、これなら確実な方法を選べるから、これでいこう。

 問題は誰を生贄に選ぶかだが、もっとも私に敵意を向けた相手にしよう。

 天罰だと前もって口にしない以上、状況判断で天罰だと思われる相手でないとね。


「私は正直反対ですね、いえ聖女教皇猊下に含むところがあるわけではありません。

 相手は一国の王家ですから、それなりの配慮が必要ですし、教会の利益を損なうのもどうかと思うのですよ。

 せっかく築いたウェールズ王国内の教会と信徒を捨てるのは、それこそ歴代の教会関係者が血の涙を流して築き上げてきたモノを失う事です。

 だから、こうしてはいかがでしょうか。

 ウェールズ王家に聖女教皇猊下に相応しい待遇を要求するのですよ。

 聖女教皇猊下に相応しい壮麗な大教会を建築させ、そちらに居を移されるのです。

 更に側室などという不敬な立場は拒み咎め、かの国におられた時に約束されていた、正室の地位を要求するのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る