第5話:激怒・聖女ローゼマリー視点
「皇帝陛下にお断りいたしますとお伝えください」
私は憤怒の感情を抑えるのに必死で、礼儀を考える余裕がありませんでした。
本来なら皇帝陛下の勅使が相手では、教皇と言えども礼儀を求められます。
ですが私は聖女でもあり教皇でもあるので、相手も威丈高には文句が言えない。
いえ、私が余りに怒りが露な表情をしているため、怯えているのでしょう。
まあ、天罰が吹き荒れた直後ですから、それも仕方がない事です。
今までは天罰など教会の教えにあるだけで、本当に実在するとは思っていなかったのでしょうからね。
「承りました、そのように陛下にお伝えさせていただきます」
勅使はそう答えながら、直ぐに帰ろうとせず、私を窺っています。
こいつはいったい何を考えているのでしょうか?
まだ何か言いたい事があるのか、それとも私に無礼を詫びろと謎かけしているの?
どうしても詫びろというのなら詫びてもいいですが、違ったら恥ずかしいですね。
素直に聞いた方が恥もかかないし、時間も無駄にしないですね。
「まだ何かあるのですか、勅使殿」
「恐れながら、教会に来られるまでのウェールズ王国での事は、皇帝陛下もご存じですので、何か望みがございましたら、率直にお話し願えますでしょうか?」
なんと、皇帝陛下が味方になると言ってくれているのですね。
ですが一国の指導者が何の見返りもなしに好意を示してくれるわけがありません。
何を求めているか分からないと、迂闊に好意を受けるわけにはいきません。
皇国の力は利用させてもらう心算でしたが、それはあくまで皇国に気付かれない範囲で、私が勝手に利用するのです。
「有難いお言葉でございます、皇帝陛下にくれぐれも宜しくお伝えください。
ですが私に対する無礼に、皇帝陛下や皇国の力を借りるわけにはいきません。
教会の聖女で教皇代理でもある私に、側室になれと言ってくるのは、教会に対する侮辱以外の何物でもありません。
これはまず教会が受けて立つべき事だと思います」
「さようではございますが、ですが聖女教皇代理猊下は皇国にとっても、いえ、人類の大切なお方でございます。
ウェールズ王国に親征をなされて、万が一の事がございましたら、神様が人類を滅ぼされる恐れもございます。
どうか現実世界の事は、皇国に任せていただけませんでしょうか。
この事は表に出すわけにはいかない事ですので、言葉だけで伝えさせていただきました」
なるほど、そういう事でしたか。
ウィリアム王太子の恥知らずで無礼な手紙と、皇帝陛下の親書を勅使が届けてくれたのは、教会の教えの中にある人類滅亡の天罰を恐れての事なのですね。
もし皇帝陛下と皇国首脳部が本気で天罰を恐れているのなら、利用させてもらいましょうか。
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