第4話:呉越同舟・聖女ローゼマリー視点
「ライラ枢機卿は、教会を正しい教えに戻す気はありますか?」
流石はライラ枢機卿ですね、私のひと言で全てを理解してくれたようです。
警戒していた表情はそのままですが、ほんのわずかに話を聞く気になっています。
早い話が条件闘争をする気になってくれたという事ですが、条件闘争する相手は私ではないので、この場で条件を決める事などできません。
まして相手は基本妥協しない正統派ですからね。
「ああ、焦らないでくださいね、私が条件を決められるわけではありませんから。
ただ今までは絶対に妥協しなかった彼らも、私の言う事ならある程度は譲歩すると思うのですが、ライラ枢機卿はどう思われますか?」
完全に話を聞く気になってくれましたね。
ライラ枢機卿も、頑迷な正統派でも私の言う事なら聞くと思っているのです。
狂信的に神の教えを護ろうとする彼らだからこそ、神に選ばれた本物の聖女の言葉には逆らえないジレンマがあります。
狂信的な信者が長年かけて捻じ曲げてしまった神の教えを。
「ある程度の理性ある正統派は、聖女教皇代理猊下のお言葉に耳を傾けるでしょう。
ですが熱狂的に神の教えを信じる者達は、自分達の考えを否定されることを極端に嫌います。
それが例え聖女教皇代理猊下のお言葉であろうとです。
恐れ多い事ですが、聖女教皇代理猊下を前教皇が仕立て上げた偽者と言ってでも、他派閥と手を組んででも、自分達の考えを護ろうとします」
ライラ枢機卿の言う通りでしょう。
それでなくても敬虔な信者は少ないのに、その中には狂信者もいるのです。
自分達の狭い身勝手な神絶対主義を、現世利益ではなく自己満足に利用します。
その辺が前教皇派やジャック枢機卿とは違う所ですが、自分の欲望のために神を利用しているところは同じです。
「考えの偏った方は、良識の有る正統派の方に抑えていただきましょう。
彼らも、少しでも教会を真の神の教えに近づけたいと思っています。
枢機卿の椅子を一席増やすと約束すれば、喜んで協力してくれるでしょう」
私の言葉にライラ枢機卿が驚いています。
今まで私は、正統派に庇護を受けて貞操を護り修行に励んできました。
狂信的とはいえ、彼らしか護ってくれる者がいなかったからです。
そして一番騙しやすいのが彼らだったからです。
心から神を信じるふりをすれば、彼らは同志だと思ってくれます。
私も本当に神は信じていましたよ、でもそれは復讐の神ですがね。
「そうですね、確かに話し合いの余地は十分にあるでしょう。
ですが、私のお友達と、正統派の方々だけでは、教会を正すには力不足です。
前教皇を失った主流派とフレディ枢機卿率いる方々か協力すれば、私達は何もできなくなります」
本気で教会を牛耳る気になってくれたようですね。
ライラ枢機卿の目が獲物を狙う猛獣のように輝います。
後は彼女に任せれば大丈夫です。
どちらと手を組み、誰を潰して誰を引き抜くか、弱みも強みも全て知っている。
たった三年しか教会におらず、その三年も修行に明け暮れた私は、教会内の力関係や人間関係には疎いのです。
教会の事はライラ枢機卿に任せて、私はウィリアム王太子と妹のビクトリアへの復讐に専念します。
「全てライラ枢機卿にお任せしますから、自由に私の名前を使ってください」
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