第7話 次の世界へ







「桜の花、咲いたかな…」

「咲いたはずだよ。ユメが初めて作った物語、とてもいい物語だと思うよ」

「ありがとう。でも、戻ったらたぶん大変なことになるだろうね」

「うん。とりあえず謝ろう」


辺り一面何もない空間、世界の狭間で私はポーマとそんなやりとりをしていた。

物語を作ることには成功した。が、問題があるのだ。

私はしょうちゃんを探すために許可がおりていないのに世界の門を潜った。

それはアクロスの規定違反なのだ。私はたしかにアクロスの試験で合格した。だが、私の夢魔法と妖精のポーマだけでは不安が残るという理由で私が世界の門を潜ることが出来なかった。


世界の狭間を抜けると私はアクロスの中にいた。


「戻ったか…君が作った物語の内容は確認した。渡り人として良い仕事はした。それは認めよう。だが、わかってるよね?君が犯した罪について…」

「はい。わかってます」


アクロスに私が入る際、私の試験を担当したノアさんがいた。青い髪ですらっとした体型でたくましい雰囲気の女性だ。


「なんでこんなことをした?」

「好きな人を探すためです。一刻も早く…」

「やっぱりか…だからといって無茶をしていいわけではないだろ」

「まあまあ、ノアちゃん、それくらいにしてあげたら?」

「いや、こいつは以前、アクロスに入っていないにも関わらず世界を渡るという違反をしたこともあるのだぞ、しかも物語を作れずに世界の崩壊に巻き込まれて実質死にかけてる。しかも、こいつの家の宝であるワールドアイテムまでなくしたと言う。私はこいつのためを考えて言っているのだ」


そう、ノアさんの言う通り私は以前勝手に別の世界へ渡った。魔法も精霊も扱えないのに危険を顧みず世界を渡ったのだった。運良く渡った世界は平和で、気がつくと私は家の中にいた。家の中には生活に必要なもの、そして大学の合格通知が届いていた。私は何も考えずに大学に入った。大学というものの知識等を調べ、行ってみたいと思ったのだった。最初の一年はあっという間だった。そして二年目、しょうちゃんが後輩として入って来た。そしてしょうちゃんと付き合い始めて幸せな時間を過ごした。もう一生この世界で生きていたいと思えるほど幸せな時間だった。だが、その時間は終わりを迎えた。世界が終わる直前、私はしょうちゃんに私の家の宝であるワールドアイテムを託した。


ワールドアイテムとはその世界で最強クラスと断言できるほど優秀な性能を持ったマジックアイテムだ。私がしょうちゃんに託したワールドアイテムは「世界渡りの時計」その時計を持った者は死んだ時、別の世界で転生できるという効果を持っている。だから、あのワールドアイテムの効果でしょうちゃんは必ず生きているはずだ。そして、しょうちゃんに託したワールドアイテムには私の夢が預けられている。夢魔法"夢の旅人"自分の夢を叶える手助けをしてくれる魔法だ。魔法が使えない私だったが、あの時、無意識で夢魔法を使っていた。しょうちゃんと私がもし、偶然同じ世界にいるということが起こった時、世界渡りの時計が反応するように願って…しょうちゃんならきっと…私に会いに来てくれると信じているから…


ノアさんが私に文句を言っている横からノアさんのパーティーメンバーであるソアラさんが声をかけた。小さな体型には似合わない巨大な大剣を2本背中に背負った黄色の髪の少女、この支部で序列二位の席を持つ強者だ。ちなみにノアさんは序列二十六位だ。そんなソアラさんに説明するようにノアさんは話を続けるがソアラさんはノアさんの話に全く興味がないような感じで私の方を見た。


「ねえ、夢海ちゃん、よかったらさ、私たちのパーティーに入らない?私たちのパーティーならそこそこ安全だと思うしどうかな?」


ソアラさんがノアさんを無視して話を進めた。するとノアさんは諦めたように黙ってソアラさんと私のやりとりを見つめた。


「私なんかが入っても足手まといになるだけじゃ…」

「いやいや、そんなことないよ。あ、ちなみにノアは夢海ちゃんがパーティーに入ることに異論はないらしいからあとは夢海ちゃんの返事次第ね」

「まあ、夢魔法は渡り人の仕事ではとても役に立つからな。パーティーにいてくれるとありがたい」

「それに人を探すんでしょ?なら少しでも人が多い方がいいんじゃない?」


ソアラさんの言うことは正しかった。世界は広い。夢の旅人の魔法では大雑把な場所くらいしかわからない。ならば、人は少しでも多い方がいいだろう。


「誘っていただきありがとうございます。是非ご一緒させてください」

「うむ。じゃあ、早速行くとするか」

「え、どこに?」


ノアさんが私の手を引っ張りソアラさんが私の背中を押す。


「どこにって…」

「次の世界に決まってんじゃん。早く探しに行きたいんでしょう?」

「ありがとうございます…」


こうして私とノアさん、ソアラさんの三人パーティーが結成され、早速パーティーメンバー全員で他の世界へ向かった。






「ここは…どこ…」


私が目を覚ますと辺りは桜色でも白色でもなかった。濃い茶色だらけの荒野と言われる場所だ。


「ポーラ…」


横に倒れていたお母さんの契約精霊、ポーラを私は抱えて歩き出した。


「ここは…どこ……」










「これ…は……」


僕はシャルとユメと共に世界を渡った。そして気がつくと薄暗い洞窟のような場所にいた。僕は僕の横に倒れていたユメを手のひらに置いて立ち上がった。すると、巨大な目と目があったのだ。僕は慌てて巨大な何かから距離を取る。だが、巨大な何かは動く気配がしない。


「死んでる?」


僕は恐る恐る巨大な何かに近づいてみるが反応はない。


「あなたは誰?どうしてこんなところにいるの?聖騎士側の人間?」


僕が振り返るとこの洞窟の唯一の入り口らしきところに剣を構えた女の子が立っていた。長い赤髪で鎧をつけている騎士風の女の子だった。そして長い白銀の髪の毛の真っ白な肌の少女が青く輝く瞳から必死に今にでも流れだしそうな涙を抑え赤髪の女の子の後ろに隠れていた。横には白色の精霊もいた。


「え、あ、いや、えっと…ごめんなさい。なんか世界を渡って気がついたらここにいて…」

「………お兄ちゃんは渡り人なの?」


赤髪の女の子の後ろに隠れていた少女が僕に尋ねる。僕がそうだよ。と返事をすると嬉しそうな顔をして僕の方にやって来た。


「え、ちょっ…危ないわよ。戻って来なさい」

「大丈夫。渡り人に悪い人はいな……いと思うから」


少女は最後の方に若干の迷いを含みながら赤髪の女の子に行った。


「あなた、渡り人ってことはこの子と同じ世界から来たの?」


構えた剣をしまいながら赤髪の女の子が僕に尋ねる。この子と同じ世界ということはこの少女も渡り人ってことなのかな…


「えっと、僕はメルカティアって世界にいたらしいんですけど僕の世界、つい最近崩壊しちゃって…」


世界が崩壊したという情報を聞き少女は震えた。もしかしてこの子もメルカティアで生きていた人なのかな?


「で、今はロマネスカって世界でアクロスに所属してます」

「うーん、そのメルカティア?やロマネスカ?やアクロス?が何かはわからないが君はこの子と同じ世界から来たのかな?この子がいたという冬が永遠と続いていた雪の世界に…」


冬が永遠と続く世界?メルカティアもロマネスカも四季はある。ということはこの少女は僕とは違う世界から来たのだろう。


「違うと思います。僕のいたメルカティアとロマネスカには四季がちゃんとありましたから」

「そうか…残念だ。その少女は気がついたらこの世界にいたという。何故そのようなことになったかわからないかな?」

「僕は…よくわからないですけど、僕と一緒にこの世界に来ているはずの仲間ならわかるかもしれません」


辺りを見渡してもシャルはいない。シャルが言うにはたまに少し離れた場所に世界転移してしまうらしい。今回がそのパターンだろう。


「その、仲間はどこにいる?」

「あ、えっと、ちょっと待ってくださいね」


僕はそう言いながらポケットに手を伸ばす。すると、ちょうどポケットに入っていたスマホが震えた。スマホを手に取り通話ボタンを押すとシャルと繋がった。


「もしもし、しょう?ちょっと違う場所に転移したみたいだね。今そっちに向かってるから少し待っててあと三十分くらいで着くと思うから」

「わかっ…切れてるし…」


僕が返事をしようとすると用件を伝えたシャルは速攻通話を切った。返事くらい聞けよ…


「えっと、すぐにこっちに来るみたいです」

「そうか…ではそれまで少し休むとしよう。この子も疲れているだろうからな。あ、名乗るのを忘れていたな、私はシャルティア、解放軍の総司令官だ。この子はゆきというらしい。一緒にいる精霊はポーラというみたいだな」


シャルティアさんがそう言うとゆきちゃんは頷いて肯定した。


「僕はしょう、この妖精はユメ、アクロスロマネスカ支部所属の渡り人です」

「うむ。よろしく頼む」


シャルティアさんが手を伸ばして来たので僕はシャルティアさんの手を取る。


「あの、ずっと気になってたんですがこれはなんですか?」


ずっとよこにある巨大な何かを指して僕はシャルティアさんに尋ねた。


「私が契約していた大精霊の亡骸だよ」

「大…精霊……」


初めて見た大精霊、亡骸でも十分な圧力を感じる。きっと、生きていたらもっとすごい力を宿していたのだろう。


「ああ、私や仲間を守るために何万という軍隊と戦い死んだ。死んだ今でも私のために戦いに力を貸してくれるのだ。私はこいつに何も返せていないというのに…」


シャルティアさんは寂しそうに呟いたそして大精霊の亡骸に手を触れる。


「同調」


シャルティアさんが叫ぶと大精霊の巨体はシャルティアさんに吸い込まれるようにして消えた。


「今、私は大精霊の力を使える。長時間は無理だがそれでも十分すぎるくらいこいつは私に力を貸してくれているんだ」


シャルティアさんが同調を解除すると再び大精霊が仁王立ちするように現れた。


「さて、とりあえず奥の部屋に行こう。ここじゃゆっくり休めないしな」


シャルティアさんの案内に続き僕とゆきちゃんは奥の部屋に入る。





「さて、三十分くらいで行くって言っちゃったからこいつらを十分くらいで片付けないとね」


私は私を取り囲むやつらを眺めながら言う。少し話をしようとしてみたが聞く耳を持たず私に力を振るおうとしたので遠慮はしない。


「アクロスロマネスカ支部序列三位シャルロット・フランシェスカがあなたたちを全力で相手してあげるわ」


戦いが始まった。





















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