第4話 雪の世界







あたり一面雪景色だった。

どこまでも降り積もる真っ白な雪が私を出迎えたのだった。

渡り人としてアクロスの一員となった私が初めて訪れた世界がここだった。


「うわ〜雪がこんなに積もってる!」

私が契約している火の妖精ポーマは降り積もる雪を見てはしゃいでいる。


「ゆめ、寒くない?体があったかくなる魔法をかけてあげるね」


ポーマが私の体を気遣って魔法をかけてくれた。ポーマはまだ妖精なので体を温めたりすることやちょっとした火を出すくらいしかできないがポーマのこの魔法は寒がりな私にとってはとてもありがたかった。


「ポーマ、これからどうすればいいと思う?」

「うーん、とりあえず町とか探してみたら?この世界で何をすればいいか調べるためにもまずは人を探さないと…」

「そうだね。とりあえず適当に歩こうか」

「それがいいと思うよ」


ポーマの同意も得られたので私はポーマを連れて雪の上を歩く。周囲を見渡しても町などが見えないので運任せに適当に歩く以外の選択肢がなかった。

そしてしばらく歩いた時、ポーマが私に向かって声をかけた。


「ゆめ、なんかおかしい…たぶんだけど大雪がもうすぐ降り始める。雪を凌げそうな場所とか探さないとまずいよ…」

「え、でもそんな場所…」


辺り一面真っ白な雪景色の中、雪を凌げそうな場所なんてなかった。


「ポーマの魔法でなんとかならない?」

「僕はまだ妖精だからそんな立派な魔法は使えないんだ。精一杯頑張っては見るけど長くは保たないからなるべく早く隠れられそうな場所を探して」

「わかった。雪が降り始めたら魔法を使って」

「任せてよ」


ポーマの返事を聞き、私は急いで雪を凌げそうな場所を探す。そして、雪を凌げそうな場所が見つからないまま、大雪と遭遇した。

最初は急いで雪を凌げそうな場所を探し回っていたが徐々に足が遅くなっていき体がうまく動かなくなる。ポーマが必死に私に魔法をかけてくれていたがもうほとんど恩恵を感じなくなっている。

徐々に意識が遠くなっていきだんだんと視界が狭くなり歩幅が小さくなる。

そして、どれくらい雪に抵抗したかはわからないが私は雪の上に倒れた。倒れた私にポーマが必死に声をかけてくれているのがわかる。でも、私はポーマに返事をすることが出来なかった。

私の上に山のように雪が降り積もった頃には完全に意識を失った。


「ごめん、ね。しょう、ちゃん…」






「すごい大雪だったね。お母さん」


家の外の雪がやんだのを見て私はお母さんに言う。お母さんは外を見ながらそうね。と軽く返事をしながら夕飯の支度をしていた。


「ゆき、ちょっとだけ薪が足りないから外に取りに行って来てくれない?」

「うん。いいよ」

「ポーラも一緒に行ってあげて」


お母さんが自分が契約している雪の精霊、ポーラに言うとポーラは黙って頷き私の横にやって来た。


「じゃあ、お母さん行ってくるね」

「気をつけてね」

「はーい」


私はポーラと一緒に家を出て家の近くの森林に向かう。森林の真ん中には巨大な木の箱がありその中には薪が大量に貯蓄されていた。

箱の中から薪を数本取り出して両手で抱えるように持つ。

これでお母さんに頼まれていたおつかいは終わりだ。


「ポーラ、帰ろうか」


私がポーラに言うとポーラは黙って家とは真逆の方向を見つめていた。そしてポーラは勝手に見つめていた方向に向かって飛んで行った。


「え、ポーラ?どこに行くの?」


私は慌ててポーラの後を追う。ポーラは何も言わず無言のまま雪の上を飛び去っていく。必死になってポーラの後を追うが積もっている雪のせいで上手く動けない。

私がポーラに追いつくとポーラは雪を必死で指差していた。


「ポーラ?どうしたの?」


私がポーラに尋ねるとポーラは必死で雪を払うようなジェスチャーをする。それを見て私はポーラが指差している雪を払う。


「暖かい…」


雪に触れると暖かくて雪が溶けかけていた。何事かと思いながら雪を払い続けると雪の中から可愛らしい女の子が出てきた。


「ポーラ、急いでお母さんを連れて来て」


ポーラは頷いて急いで家まで飛んでいく。私は必死に女の子を雪の中から救い出した。女の子の横には小さな精霊(たぶん妖精)がいたので妖精も一緒に助け出す。女の子と一緒にいた精霊はとても暖かかった。たぶん、雪が溶けかけていたのはこの子のせいだろう。


やがて、ポーラがお母さんを連れて戻って来たので私とお母さんで女の子と精霊を私の家まで運んだ。







私が目を覚ますと私はベッドの上にいた。

私の横では私が契約している妖精、ポーマが眠っている。ポーマの体に触れるといつも以上に暖かく、必死で私を守ってくれたということがよくわかった。


「あ、お姉ちゃん起きたんだ。よかった。とりあえず一安心だね」


私が眠っていたベッドの横にある椅子に腰掛けていた女の子が私に声をかけてくれた。綺麗な白銀の長い髪の毛、白い肌、青色の瞳、まるで雪みたいな可愛らしい女の子だった。年齢は6歳くらいだろうか。


「お姉ちゃん雪の中で倒れてたんだよ。お母さんが契約してる精霊のポーラがお姉ちゃんを見つけてくれたんだ」

「そう、なんだ…ありがとう。あとでそのポーラ?って精霊にもお礼を言わせてもらえるかな?」

「うん。もちろんだよ。それよりお姉ちゃん変わってるね。黒色の髪の毛の人なんて初めて見たよ。ねえ、お姉ちゃんお名前は何ていうの?もしかしてお姉ちゃん渡り人?」


女の子は目をキラキラさせて私に質問してくる。


「私の名前は二瓶夢海、ちなみにこっちの妖精は火の妖精ポーマ、一応渡り人だよ」


私の返事を聞くと女の子はすごく嬉しそうな表情をする。


「本当に!?お姉ちゃんが渡り人なの?」

「うん。本当だよ」

「じゃあさ、桜の花見たことある?」

「桜…うん。あるよ」

「すごい!桜の花ってどんな花なの?綺麗?どんな形でどんな色なの?」


女の子は目を輝かせながら私に質問の嵐を浴びせてくる。私が女の子の勢いに押されていると部屋の扉が開いた。


「ゆき、ちょっと静かにしなさい。あ、やっぱり起きたのね。ゆきがはしゃいでたからたぶん起きたんだと思ったからさ…とりあえず暖かいスープでも飲みなさい」


女の子のお母さんだろうか…優しそうな感じの女性が私が眠っていたベッドの横にスープを置いてくれた。湯気が出ていてとても暖かそうなスープだった。


「いただきます」


好意に甘えて私はスープをいただく。暖かくてとても美味しいスープだった。


「ねえ、お母さん聞いて!お姉ちゃん渡り人なんだって。すごいよね」

「あら、そうなの。ならごめんなさね。この子渡り人の話が大好きだからたぶんしつこくなると思うけど」

「しつこくないもん!」

「はいはい。そうね。とりあえずゆきは静かにね。しばらくゆっくり休んでていいから、何かあったらゆきに言ってね。ゆき、お姉ちゃんに無理言っちゃダメよ」

「はーい」


ゆきちゃんの返事を聞き、お母さんは部屋から出て行った。お母さんが部屋から出て行って少しするとゆきちゃんは私に桜の花について再び尋ねた。


「この世界には桜の花はないの?」

「うん。この世界には冬しかないから…冬じゃ桜の花って咲かないんでしょ?前に来た渡り人の話でね。桜の花が春って季節を呼んできてくれるって話があるの。私、冬しかないこの世界が嫌い。だから、桜の花を見てみたいの。桜の花が咲いたら春が訪れるからさ…」


ゆきちゃんは寂しそうに言った。桜の花が見てみたい。私のいた世界では桜の花なんてたいして珍しいものではなかった。でも、この世界ではとても珍しいものらしい。


「紙と鉛筆ないかな?」

「え、あるよ。ちょっと待ってて」


ゆきちゃんは部屋の端にあった机から紙と鉛筆を持ってきてくれた。


「桜の花はね。こんな感じの木に咲く花で。こんな形なんだよ。色はピンク色、私の世界ではね。ピンク色を桜色っていう人もいるんだ」

「そうなんだ。羨ましいな…桜の花が見られるなんて…」

「羨ましくなんてないよ…だって、私の世界じゃ二度と桜を見られないから…」


そもそも世界すらなくなってしまった。こうして、無事に存在する世界が私には羨ましかった。


「お姉ちゃん?」

「あ、ごめんね。なんでもないよ」


つい先日の楽しい記憶を思い出してしまい、ゆきちゃんの前で暗くなってしまったことを反省しながら私は桜の花の続きを書く。


「桜の花がいっぱい咲く頃にはね。みんなで集まってお花見をするの」

「お花見?」

「うん。桜の花をみんなで見ながらご飯を食べたりするの」

「へえ〜すごい楽しそうだね!」

「うん。すごく楽しいよ」


前の春、私はしょうちゃんとお花見をした。二人きりで、春の終わりの頃でほとんど桜は残っていなかったがすごく楽しかった。次は満開の時にお花見をしようと約束していたがその願いは叶いそうにない。いや、いつか私みたいに他の世界にいるかもしれないしょうちゃんと再会出来ればこの約束は果たせるかもしれない。


「一度だけでいいから、桜の花見たいな…そして、お母さんやお父さん、ポーラや友達と一緒にお花見してみたいな」


一度でいいから桜の花を見てみたい。そんなゆきちゃんの願いを私は叶えてあげたくなった。


「ゆきちゃん、外に行こう!」

「え、何をしに!?」

「桜の花を見に行くの!」


私は私の横で眠っているポーマに布団を被せてゆきちゃんと一緒に外へ出た。


桜の花を見るために…
















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