第3話 結果と契約






謎の痛みに襲われた直後、僕はユリウスさんの方を振り向いた。

本気になったユリウスさんの雰囲気は急に変化した。

試験官としてのユリウスさんはなじみやすいという印象だったが本気になったユリウスさんは獣のような雰囲気を身に纏っている。

獣と言っても僕はせいぜい動物園で人間慣れしたライオンやトラなどしかみたことがないので獣がどういうものか知らない。だが、ユリウスさんの雰囲気を肌で感じ、これを獣というのだと感じることができた。


「では、次行くぞ!!」


そう宣言したユリウスさんは一瞬で僕の目の前に迫った。そして持っていた木刀を僕の体に突き出す。


「俊足・三重アクセル・トリプル


僕は魔法を発動しユリウスさんの攻撃を回避する。だが、ユリウスさんは一瞬で僕の前に再びあらわれた。

魔法を使ってやっとユリウスさんと同等の身体能力を得ることができているのが現状だった。ユリウスさんは強く、僕は弱いということがよくわかった。


「さっき君は目に見えれば私の魔法は怖くないと言っていたね。不可視の斬撃インビジブルスラッシュ


ユリウスさんが先ほどとは別の魔法を使いながらその場で木刀を数回振った。直後、僕の体に何回もの激痛が走った。


「ふう、まあこんなものか…魔法を習い始めて一週間程度でこの実力か…これは確かに将来有望だな。さすが、シャルロット様が育てただけのことはある」


僕はユリウスさんの言葉に違和感を覚えた。今、確かにユリウスさんはシャルのことを様付けで呼んだ。僕がみた感じ明らかにシャルの方がユリウスさんより年下だろう。

僕はその疑問をユリウスさんに伝えるとユリウスさんは驚いたような表情で答えてくれた。


「知らなかったのか、シャルロット様はアクロスロマネスカ支部で三本の指に入る実力者、序列三位の座を持っていらっしゃる。序列二十四位の私が様を付けて呼んでもおかしな点はないだろう?」


ユリウスさんがあっさりと答えると部屋の扉が開いた。


「ヤッホーユリウス、お疲れ様、しょうは合格ってことで大丈夫よね?」

「はい、問題ないと思います」

「わかった。ありがとね、後の手続きは私がやっとくから、しょう合格おめでと。早速登録に行くわよ」


突然部屋に入って来たシャルが僕の腕を強引に掴み僕を部屋の外へと連れて行く。


「しょう君、合格おめでとう。君の活躍を期待しているよ」

「ユリウスさん、ありがとうございます」


ユリウスさんに礼を言った後、僕はシャルに連れられて部屋をでた。そして急いで受付に戻り登録手続きを行った。


「アクロスロマネスカ支部序列三位シャルロット・フランシェスカの名の下に推薦した受験者の合格手続きと、アクロスロマネスカ支部への登録手続き、あと私とのパーティー登録の手続きをお願い」

「かしこまりました。シャルロット様、ロビーにてしばらくお待ちください」


受付の人にそう言われたので僕とシャルはロビーのソファーに座り手続きが終わるのを待つ。そして、しばらくすると僕とシャルが呼ばれたので僕とシャルは受付に戻った。


「お待たせいたしました。まずはこちらをどうぞ、試験合格の書類です」

「ありがとうございます」


僕は書類を受け取り手に持った。


「そしてこちらがしょう様の会員証としょう様のストレージカードです。無くさないようにお気をつけてくださいね」

「ストレージカード?」

「ストレージカードっていうのはね。ストレージの魔法が付与されたカード、そのカードに荷物とか武器とか食料をしまったり自由に取り出したりできるの。すごい便利なカードよ」


シャルの説明を聞きながら僕は会員証とストレージカードを受け取った。シャルに言われて早速合格書類をストレージカードに入れてみた。確かにすごく便利だ。


「そしてパーティー登録も受理されましたのでご報告させていただきますね。後日パーティーのエンブレムとパーティー名をご提出お願いします」

「わかったわ。ありがと」

「これで諸々の手続きは終了です。ですが、しょう様にはもう一つやっていただくことがありまして…シャル様も同行されますか?」

「うん。楽しそうだしついてく」

「わかりました。ではお二人ともあちらへ」


受付の人の指示に従い僕はシャルと一緒に受付の近くにあった部屋に入る。部屋の中には白衣を着たおじさんとどでかい機械が置いてあった。


「おう、きたな。久しぶりだな、シャル」

「久しぶり〜あ、この人はサキス博士、ロマネスカ支部の武器開発部門の部門長よ。武器とかの調整や開発をしてくれてるの」

「はじめまして、サキスです。さて、早速だが君に合う武器を考えよう。先ほどユリウス君との試験を見たが君にはこの二つの武器がいいと思う」


サキスさんはそう言いながら僕の前に剣と銃を置いた。


「その剣はとても軽く設計してある。だが切れ味は普通の剣よりも強い。そしてその銃は中にゴム弾が入っている」

「ゴム弾?」

「ああ、当然普通の弾丸を入れることも可能だよ。だがこのゴム弾にはパラライズの魔法、このゴム弾にはスリープの魔法が付与されている。その弾丸を当てれば相手を無力化できて便利だ。あと、これは何も付与されていないゴム弾だ。これには君の強化魔法を付与するといい。そうすればパーティーメンバーに君の魔法をバフとして与えられる。シャルの頼みでこの二つの武器を選んだのだがどうかね?」


武器のことはよくわからないのでシャルとサキスさんの判断に任せることにした。僕はサキスさんから剣と銃を受け取りストレージカードに入れる。


「さて、とりあえず武器はこれでいいだろう。あとは最初に契約する妖精を決めないとな…ついて来なさい」


僕はサキスさんに続いてシャルと一緒に奥の部屋に向かう。


「ここは?」

「うむ。ここはアクロスが生み出した妖精が管理された部屋だ。本来妖精や精霊とは自分で契約を結ぶ。だが、精霊とかが一緒にいた方が他の世界からの帰還率が高いのだ。だからアクロスは試験に合格した者全員に妖精と契約させるようにしたのだ」


サキスさんの話を聞きこの部屋がなんなのかがよくわかった。


「この部屋にある指輪の中から一つ選んで持って行くといい。その指輪を身につければ契約完了だ。契約完了後は妖精に名前をつけてあげなさい。そうすれば指輪をつけていなくても妖精を呼ぶことができる」

「わかりました」


サキスさんの説明を聞いた僕は適当に指輪を見て回る。見てもわからなかったので適当に選ぶことにした。目の前にあった指輪を手に取り身に着ける。

すると指輪が光出して僕は光に包まれた。

目を開けると目の前には小さくて可愛らしい妖精がいた。


「……私は、夢の妖精…です。契約…しますか?」


弱々しい声で夢の妖精は僕に言った。夢の精霊はとても可愛らしくておとなしい印象の人の指くらいの大きさの妖精だった。


「似てる…」

「え?」


僕の言葉を聞き夢の妖精はきょとんとする。


「あ、ごめん。僕の好きな人になんとなく雰囲気が似てて…」

「そう、ですか」


夢の妖精は僕の大好きな人、僕の大切な人、夢海に雰囲気が似ていた。夢の精霊を見ているとなんとなく僕は落ち着いた感じになれた。


「僕の名前はしょう。あ、えっと、名前をつければいいんだっけ?」

「はい…」

「うーん、名前か、ユメとかはだめ?」

「それで、大丈夫、です」


夢海の名前の最初の夢の文字を借りることにした。夢の精霊にユメという名前はどうかと思いながら本人の反応を伺った。ユメは弱々しく大丈夫というがなんか嬉しそうだった。


「気に入った?」

「はい!」


ユメは笑顔で僕に言った。ユメの笑顔はなんとなく夢海に似ていた。ユメの笑顔を見ていると自然と目から熱いものが流れ出る。


「え、えっとしょうさん?大丈夫、ですか?」


ユメは泣いている僕を見ながら慌てて僕に尋ねる。


「あ、ごめん、やっぱりユメが僕の好きな人に似ててさ」

「えっと、その好きな人とは今…」

「僕の世界、この前崩壊したんだ。でも夢海は他の世界で生きてるみたいなんだ。だから夢海にまた会うために世界を渡ろうと思ったんだ」

「そう、ですか、素敵、ですね。私も、是非協力させて、ください」

「うん。よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


このなんとなく距離があるような感じは僕と夢海の出会いと似ていてなんか懐かしかった。


「ユメはさ、どんなことができるの?」

「私は、夢魔法を使えますが、今使える魔法は人を眠らせる魔法、眠らせた相手に好きな夢を見させてあげる魔法くらいです。はっきり言ってやくに立たない魔法です。はっきりいうと私より別の方と契約した方が…」

「そっか。でも、僕はユメがいい。ユメと契約するよ。これからずっと一緒にいてほしい。本当にそう思う。だから、よろしくね」

「はい」


こうして僕とユメは契約を終えた。契約が終わると光が消えて元の場所に戻った。


「あ、しょう契約は終わった?」

「うん。この子、夢の妖精のユメと契約した」

「そっか、ユメちゃん、私はシャル。しょうのパーティーメンバーだからよろしくね」


シャルがユメにそういうとユメはびっくりして僕の背中に隠れる。こういう人見知りなところも夢海にそっくりだった。


「ごめん。この子人見知りみたいだから慣れるまでそっとしといてあげて」

「わかった。さて、やることも終わったし帰りましょうか。帰ってしょうの合格祝いしないとね。あ、あと明後日には他の世界に行こうと思ってるけどいいかな?」

「うん。僕は大丈夫だよ。ユメは大丈夫?」

「はい」

「じゃあ決まりね。とりあえず帰ってお祝い、そして準備しないとね。他の世界に行くための」


シャルの言葉に頷いて僕はシャルとユメと一緒にシャルの家に帰った。


そして数日後、僕とシャルは別の世界に向かうためにアクロスロマネスカ支部を訪れた。

シャルが手続きを済ませて僕たちは扉の前に立たされた。


「この扉をくぐると私たちは別の世界に行くことができるわ。会えるといいわね。夢海さんに…」


シャルが僕の横で僕に言う。僕は黙ってシャルに頷いてシャルと一緒に扉を開き、中に入った。





この世界には春がない。夏もない。秋もない。

ずっとずっと、寒い冬のまま、かつてこの世界にやって来た渡り人という人の話では世界には4つの季節というものがあるらしい。

春、夏、秋、冬この4つの季節のうちこの世界はたったの一つしか季節を持っていなかった。

渡り人の話では桜という綺麗な花が咲く春、暑くて蝉が鳴き、海に潜るのが気持ちいい夏、おいしい食べ物がいっぱいある秋、そして、雪が降りあたり一面真っ白になる冬

渡り人が残した話は何年も語り継がれて来た。

過酷な寒さに苦しむとき、この世界の人々は一度も見たことがない桜の花を想像して来た。いつか必ず桜が咲き春が訪れるようにと願いながら…

桜の花を見てみたい。それが私の夢だった。 この世界で生きる人の夢だった。




私が目を開くと辺り一面雪景色だった。











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