第2話 魔法と試練






「で、世界を渡るってどうすればいいの?」

「その前にあなた名前は何ていうの?私まだあなたのこと何も知らないんだけど…」


僕がシャルに尋ねるとシャルは少し怒った感じでいう。そういえばまだ名乗ってすらいなかった…


「僕は石川しょう、18歳で日本出身」

「その日本ってのがわからないわ…改めて、私はシャルロット・フランシェスカ、シャルって呼んでいいからね。この世界ロマネスカ出身よ。年齢はあなたと同じ18歳、アクロス、ロマネスカ支部所属の渡り人で鎖魔法の使い手よ。よろしくね」

「あ、うん。よろしくね。シャル…さん…」


先ほどからずっと理性を保てていなくて気づかなかったがシャルは普通に可愛い女の子だった。長い金髪のロングヘアーで可愛らしいブラウスにキュロットスカート、そしてニーハイソックスと服装も可愛らしい女の子で綺麗な青色の瞳をしていた。


「シャルでいいって言ってるでしょ。さん付けとか慣れてないからやめて」

「あ、うん。よろしくねシャル」

「うん。よろしく」


正直わけわからないことが多すぎて頭の中の整理が全く追いついていなかった。アクロス、魔法とわけのわからないことが多すぎる。唯一分かったことはこの世界の名前がロマネスカであるということだけだ。


「えっと、その、アクロスって何?」

「うーん、それについてはまた後で説明するとして、しょうって魔法使える?」

「え、使えるわけないじゃん。さっきシャルの魔法見てびっくりしたし…この世界は魔法が存在するんだね」

「あ、そっかしょうのいた世界じゃ魔法そのものが存在しないのか…え、じゃあさ、どんな魔法が使えるか調べてみようよ!」


シャルが目をキラキラさせて僕に言う。魔法、か…ちょっと…いや、かなり興味ある。


「えっと、まず魔法ってのがどんなのかわからないんだけど…」

「魔法は魔法だよ。魔法っていう概念は知ってるんだよね?多分魔法を使える渡り人がしょうの世界に行って魔法を使ったことが噂になって魔法って概念がそっちの世界でも生まれたと思うんだけど…まあ、しょうも使えると思うよ。魔法はね、基本的に一人一つの属性を持ってるの。私の場合は鎖、だから私は鎖魔法が使えて他の属性の魔法は使えないの…ちょっと外に来て」


シャルに続いて僕は部屋を出て廊下を歩き外に出る。シャルの家の庭のような場所に案内された。庭の真ん中には木の柱があり、マトのようなものが吊るされていた。


「術式起動!」


シャルがそう叫ぶとシャルの周りに鎖が現れてシャルがマトに手を向けると鎖がマトめがけて一直線に進んでいった。


「これは鎖魔法の基礎ね。鎖を作って自在に操るの。そしてもう少し難しい魔法になると鎖に何らかの効果をつけるの。例えば、鎖に触れると傷を癒すことができる鎖とか…後はこんなこともできるよ。術式起動・火炎鎖」


シャルがそう叫ぶとシャルが操っていた鎖が燃え始めた。シャルの鎖に手を伸ばすとシャルの鎖周りは鎖が本当に燃えているように熱かった。


「これはね。私が使う鎖魔法に火の魔法を付与したの」

「え、でも魔法って一つの属性しか使えないんじゃ…」

「そうだよ。私は鎖の魔法しか使えない。だから精霊と契約しているの。そうすれば精霊が使える属性の魔法を借りたり精霊と一緒に戦ってもらったりできるの」


シャルが言うにはこの世には妖精・準精霊・精霊・大精霊・精霊神というものが存在しそれらと契約することにより自分の弱点を補ったり、単純に戦力として一緒に戦ったりするらしい。


「ちなみに私は火の精霊アスラと風の妖精シルフとか色々な精霊たちと契約しているわ。だから私は鎖に火と風の魔法を付与したりアスラとシルフの力を借りたりできるの」

「なるほど、何となくは分かった」

「で、これからが本題で今からあなたの魔法の属性を調べるわ。あのマトの中心に手を触れてみて」


シャルに言われた通り僕はマトの中心に手をくっつける。


「今から私の魔力を使ってしょうに魔法を使わせる。魔法と言っても鎖を作る程度の魔法しか発動しないから身構える必要はないわ。ちなみにこのマトには魔性石というものが埋め込まれている例えば、しょうの属性が火だったとする。その場合当然このマトは燃え始めるでも、魔性石が埋め込んであるから魔法で生じた火は本来の火としての役割を果たせない。簡単にいうと魔性石に触れた魔法は全て幻術となるの。だからたとえどんな属性でも怪我をしたりはしないから安心して」

「分かった」

「じゃあ、やるわよ」


僕の返事を聞いたシャルは早速僕に魔力を流し込む。シャルの手が当たっている場所から力が湧いてくるような感じがした。そしてマトに触れていた僕の手へと力は伝わっていく。

そして僕の手から魔法が放たれる。するとマトの中にあった魔性石が輝き始めた。


「これは?」

「強化魔法ね。珍しい…どうやらしょうは強化魔法を使えるみたいね」

「強化魔法か…どんなことができるの?」

「うーん、パワーを上げるブーストとかスピードを上げるアクセル、防御力を上げるガード、聴覚をよくするエコー、治癒力を活性化させるヒールとかが有名かな。いろいろなことができて便利なのが強化魔法の特徴ね…」

「そうなんだ…」

「さて、しょうの魔法の系統も分かったしまずは魔法をちゃんと使えるようになろう!一週間後に控えているアクロスの試験を受けるためにある程度強くならないと…」

「アクロスって何?」

「アクロスっていうのは渡り人を他の世界に送り込む組織、アクロスによって他の世界に送り込まれた渡り人は送り込まれた世界で物語を作るの」

「物語?」

「ええ、その世界の伝説、神話、おとぎ話を実際に生み出すの。それが渡り人の仕事、世界の物語を作ることができたらその世界での役割は終わりでこの世界に戻ってこられるの。そうやって様々な世界をめぐるために登録しなければいけないのがアクロス、そしてアクロスの入団試験が一週間後なの、だから一週間後までにアクロスの試験に合格する程度の力を身につけてもらう。私が稽古をつけてあげるから覚悟しなさい」

「分かった。よろしくお願いします」


僕がそう返事をしたら早速シャルの特訓が始まった。

シャルの特訓をこなしていていくつか分かったことがある。一つ目は僕の身体能力がかなり上がっていたこと。多分、前の世界にいた時の数倍は強くなっている。シャルが言うには渡り人の力が目覚めたことが原因のようだ。そして二つ目、僕の基礎身体能力は渡り人の中では平均程度だと言うこと、まあ、基礎身体能力は体を鍛えればちゃんと成長するらしい。

シャルの特訓が始まって数日が経過しているので最初に比べて体がだいぶ動くようになった。


「術式起動!追尾するハウンドチェーン


シャルが魔法を発動するとシャルの周りから鎖が現れて僕を追いかけるように鎖が放たれた。


「俊足・二重アクセル・ダブル


僕は魔法を発動して自身の移動速度を上げる。そしてシャルが放った魔法の鎖を避けるが避けても避けても鎖は僕の後を追いかけてくる。そしてアクセルの魔法が切れたタイミングでシャルの鎖に捕まりシャルの鎖で完全に拘束された。


「くっ…強化・三重ブースト・トリプル


僕は魔法を発動し自身のパワーを上げる。そしてシャルの鎖を強引に破壊した。


「ふう、まさかこれだけの時間でここまで強くなるなんてね…うん、それだけの力があれば試験も受かると思うよ。明日の試験、頑張りなさい…あ、後試験に受かったら私とパーティーを組むって約束忘れないでよ」

「うん。分かってるよ。シャル、いろいろ教えてくれてありがとう」


僕は試験に受かったらシャルとパーティーを組む約束をしていた。その代わりシャルは僕に魔法を教えて、僕に渡り人の仕事での報酬が出るまで僕を養うと言う約束をしていた。シャルに受けた恩を返すためにも明日の試験に必ず合格しなければならなかった。


そして翌日、いよいよアクロスの試験の日だ。当日の朝、僕はシャルに連れられて町の中心にある巨大な建物に僕は入った。そして受付でシャルが僕の試験手続きをしてくれた。そして僕はアクロスの人に案内されて控え室に通された。


しばらくして僕の名前が呼ばれたので僕は案内に従い控え室の隣の部屋に入る。部屋の中は草原のようになっておりかなり広い。そして部屋の真ん中に一人の男が仁王立ちしていた。スラッとしたイケメンの男が僕をみて話始める。


「今回、君の試験を担当するユリウス・アルベルトだ。ユリウスと呼んでくれ、早速だが試験を始めよう。知っての通り渡り人は様々な世界に行く仕事だ。当然危険も多いしある程度の強さがないと帰ってこれなくなる。そんな危険な仕事だ」


ユリウスさんはそう言いながら足元にあった木刀を手にする。


「僕と戦い君の力を見せてくれ、武器はそこにあるものなら使ってくれて構わない。あ、一応言っておくが僕は君がどんな魔法を使えるか知らない。そのアドバンテージを活かしてくれ」


僕はユリウスさんの説明を聞きながら武器を選ぶがシャルとの特訓では武器を扱っていなかった上に武器なんてまともに使えるかわからない使えるかわからないものに意識を割いて動きが鈍ったら元も子もない。


「素手でお願いします」

「そうか、分かった。相手に参ったと言わせるか気を失わせたら勝ち。危ない場合は強制的に試験終了。それでいいかい?」

「はい。大丈夫です」

「あ、あと、この戦いで私は精霊などの力を使わない使うのは私の力だけだ」

「わかりました」


ユリウスさんが剣を構えるのを見て僕は拳を構える。ユリウスさんの構えは美しく。剣先の鋭さが伝わってきた。木刀なのに、鉄のような刃の美しさが感じられて僕の体は少し震えた。


「では、はじめ!」


ユリウスさんがそう言った瞬間、僕はユリウスさんから距離を取る。相手がどんな魔法を使うかわからないので距離をとって様子見をしたかったのだ。


「なるほど、まあ、妥当な判断だ。いいだろうでは私から先に仕掛けるとしよう」


ユリウスさんはそう言いながらその場で剣を振るう。するとユリウスさんの木刀から斬撃のようなものがすごい勢いで飛ばされる。


「くっ…」


斬撃が僕に直撃し僕は後ろに吹き飛んだ。


「切れ味のない木刀だからこの程度で済んだが本当の剣ならば重症だぞ。今のは避けれると思っていたのだが」

「初撃ですからね。様子見、威力を測ったりするのはこの一撃が一番かと思いまして…」


僕はふらつきながら立ち上がる。本物の剣ではないためかそこまでの威力はない。


「斬撃を飛ばす魔法…?」

「正解だ。私が持つ斬撃魔法の一種、旋空、私の視界内の場所に斬撃を飛ばせる魔法だ」


ユリウスさんはそう言いながら僕めがけて次々と斬撃を放つ。


「目に見えるならそこまで脅威じゃない…俊足・三重アクセル・トリプル


僕は魔法を発動しユリウスさんの斬撃を躱してユリウスさんとの距離を詰める。


「強化・二重ブースト・ダブル


僕は魔法で強化した拳で全力でユリウスさんを殴りつける。僕の拳を正面から喰らったユリウスさんは数メートル後ろに吹き飛んだ。吹き飛んでいる最中、ユリウスさんは空中であっさりと体制を立て直し綺麗に着地する。


「なかなかやるな。強化魔法か…いい魔法じゃないか。では私もそろそろ本気で戦うとしよう」


ユリウスさんがそう呟いた直後、ユリウスさんの放つ雰囲気が一瞬で変わった。


「君に言っておく。試験は合格だ。これから私は試験官のユリウスではなくアクロスロマネスカ支部序列24位ユリウス・アルベルトとして君に戦いを挑む。嫌なら拒否してもらって構わない。拒否したからと言って不合格にしたりはしない」


ユリウスさんの雰囲気、オーラからしてユリウスさんは僕より格上だろう。せっかく戦ってくれるというのだ。断るのは勿体無い。


「よろしくお願いします」

「いい返事だ」


そう言った瞬間僕の体にかなりの痛みが走った。



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る