Re:崩壊する世界より異世界転生-異世界の物語を紡ぎ君に会いに行く。

りゅう

第1話 物語の終わりと始まり








冬………

肌寒い風が身に当たり息を吐くたびに白い息が出てくる程寒い日だった。


駅前の広場の人混みに身を任せながら待ち合わせの場所に向かう。いつも会う時に目印にしている時計台が見えて人の流れに逆らい走り出した。


いつも2人で会う時には必ずここを訪れる。2人だけの待ち合わせ場所だ。


今日も待ち合わせをしている。いつもの場所に私が着くといつも私よりも先に彼がいる。寒そうにポケットに手を突っ込みながらベンチに座って私を待ってくれていた。


「まだ約束の1時間前だよ…風邪引いたらどうするの…」

「そういう夢海だってこんなに早く来て…風邪引くよ」

「どうせしょうちゃんはもう来てると思ったから…実際そうだからいいでしょ」

「そうだけど……」

「とりあえず行こっか、ここにいても寒いから早く行きましょ」

「そうだね」


僕はベンチから立ち上がって夢海の手を握る。短いショートヘアーの可愛らしい女の子…僕より1つ年上の先輩だがこうして部活とは関係ないところで会う時はお互い対等の立場ということが僕たちのルールだ。


「いつものところでいい?」

「うん」


夢海は少しだけ顔を赤くしながら僕に答える。僕はいつも通り夢海の手を引っ張って近くのカフェに入る。カフェの中はあったかいので2人ともコートを脱いで椅子に置いて席に着く。


その後はいつものようにコーヒーを飲みながら雑談をする。部活のことや大学での生活のことなどを話したりしている。


そして今日の行き先を話し合い行き先を決めた後にカフェのお会計を済ませて店の外に出る。


「じゃあ行こうか」

「うん」


先程決めた行き先に向かうために僕は夢海の手を握って歩き出そうとした。

その瞬間だった。


周りが急に暗くなり周囲が、うるさくなった。そして周りにいる人たちが次々と宙を見上げる。それにつられて僕と夢海も上を眺める。


「何…これ……」


空を見上げてから数十秒後、ようやく夢海が振り絞る声で呟いた。それに対する答えは周りの誰も発することができない。それほど異様な光景だった。


まだ朝なのにもかかわらず空は赤くなっており何より衝撃的なのが星と星がぶつかり合っている。そして、僕たちの上空からこちらに星が迫ってきていた。それも、一つだけでなく、複数の星がまるで、地球に引きつけられているように流星群となって降り注ごうとしていた。


「世界の……終わり……」


誰かが呟いた。そして、その一言を否定する者はいなかった。

僕はとっさに夢海を抱きしめていた。夢海も僕に体を預けてくれている。

この絶望的な状況でもこうして夢海を…好きな人を抱きしめていると自然と落ち着けた。


「ぶつかるぞー」

「あぁ…神よ……」


周りは混沌に満ちていた。狂い叫ぶ者、泣きわめく者、神に祈りを捧げる者など多数の者がいた。

だが、それらを全て無視して遠くの場所に星が衝突した。

星が衝突した際の衝撃波で辺りの建物が吹き飛ぶ。そして、その瓦礫に僕たちは閉じ込められた。

痛い…痛い…体中が激痛に襲われる。僕が瓦礫から夢海を守る盾のような役割を担ったため、夢海はたいした怪我はしていなかった。だが、二度目の衝撃で再び瓦礫が降り注ぐ。


「しょう……ちゃん……」


弱々しい声で夢海が僕の名前を呼ぶ。僕の腕の中にいる夢海を見るとかなり弱っていた。幸い、大きな怪我はしていないみたいだった。だが、僕の体は…限界だ…


「よかった…夢海が無事で……」

「よかった…のかな?今ので死ねた方が楽だったかもしれないのに……」

「たしかにそうかもしれないけど…僕はなるべく長い間夢海と一緒にいたかった」

「嬉しい…私もだよ…」


夢海は泣きながら僕にそう言った。

僕は今までよりも強く夢海を抱きしめた。そして、初めてのキスをした。激痛に襲われていたはずなのに、今、こうして夢海と唇を重ねている瞬間だけは…幸せを感じられた。


「しょうちゃん…怖い……しょうちゃんと離れるのが怖い………ずっと一緒にいたい……」

「大丈夫だよ。夢海、約束する。例えこの世界が滅んでも絶対に夢海と再会するって…絶対また夢海と会って、夢海と幸せになるって約束する」

「あり…が……とう………私も……しょう…ちゃんに………必ず……あ……」


夢海の返事を聞き終わる直前、巨大な星が地球に衝突し、地球は崩壊した。そして連鎖するように全ての星が衝突し、世界は終わりを迎えた。

最後に夢海から聞いた一言…それだけは覚えている。僕に何かを渡しながら…


生きて……


と、震える声で夢海は僕に言った。




「はっ…」


目覚めた僕はベッドの上にいた。見覚えのない場所だった。


「あ、起きたみたいね、大丈夫?あなたうちの前で倒れてたのだけれど……」


可愛らしい金髪のロングヘアーの女の子が僕に話しかけてきた。見覚えはない。可愛らしい女の子だった。


「………君………は?」

「私はシャルロット・フランシェスカ、シャルでいいわよ。で、あなた大丈夫なの?うちの前で倒れてたんだけど……」


シャルは心配そうな表情で僕に尋ねる。

曖昧だった…ここがどこで、どうしてここにいるのか僕には分からなかった。


「夢……海………」

「夢海?」


シャルは不思議そうに僕が呟いた言葉を復唱する。


「夢海……そうだ、夢海は?夢海はどこに……ていうか世界は……」

「なるほどね、君はメルカティアから来たのね…災難だったわね。急に世界が崩壊するなんて…」

「メルカティア?」

「君がいた世界の名前だよ。つい最近完全に崩壊したって報告があった。どうやら君は渡り人の血を持っていたみたいね。おかげで世界が崩壊する前に異世界転移に成功した、と……」


何を言っているのかわからなかった。

世界が崩壊した?ならここはどこだ?あの世なのか?渡り人ってなんだ……様々な疑問を抱いた。だが、最も気になることは……


夢海はどこに………


「夢海は……」

「その夢海って人が誰かはわからないけどたぶんもういないでしょうね。メルカティアの崩壊は確認されているから」

「そんな…約束……したのに……」


絶対に夢海と再会する。そう約束した。僕は生き残った。だが、夢海がいないなんて………


「大切な人…だったんだね……」


シャルは気の毒そうに僕に声をかける。僕は黙ってポケットのスマホを取り出して電源を入れる。トップ画面に表示された僕と夢海の二人が写った写真…それを見て僕は泣いてしまった。


「可愛いね…彼女さんかな?」

「あぁ…本当に可愛くて大切な人なんだ…」


夢海の写真を見て、夢海との思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。夢海に会いたい……

僕は可能性を信じて夢海に電話をかけるが当然のように圏外だった。


「それはメルカティアの通信機器かな?たぶんだけど、この世界や他の世界にも使えるようにできるよ。ちょっとだけ貸してね」


僕はシャルになんの抵抗もせずにスマホを渡した。ぶっちゃけ抵抗する気力すらなかった。


「はい、たぶんこれで大丈夫。試しにかけてみるね」


シャルは少しスマホをいじって僕にスマホを返す。そして自分のポケットから小さな筒のようなものを取り出してスイッチを押す。すると、空気中にモニターのようなものが現れた。それをシャルが操作すると僕のスマホが震えた。


「うん。大丈夫みたいだね」


…………………………………………………………………………………………………………………………

静寂が訪れた。


「えっと、君は今からどうする?」


シャルは気まずい雰囲気に耐えきれずに口を開いた。それに対する僕の回答はたった一言だった。


「死ぬ……」


この言葉を聞いた瞬間、シャルは顔を青くして震えた。僕の言葉を本気と受け取ったからだろう。実際本気で言っていた。


「何を…言ってるの?」

「夢海がいない世界にいたくない…あの世に行って夢海とまた会いたい……約束したから…また、必ず会うって…一緒にいるって…」

「何で、せっかく助かった命なんだよ。大切にしなよ。それに、夢海さんだって君が死ぬのを望んでないよ……」


生きて…その言葉が脳裏を過ぎる。だが、夢海に会いたい。夢海に会うために…死にたい。


「君に何がわかるんだ…」


シャルは本気で僕を止めようとしてくれた。だが、僕はそれを拒んだ。夢海に会いたい。そのために死にたい。邪魔は…しないで欲しかった。

僕は黙って立ち上がろうとする。


「何をする気?」

「ここからでる。そして誰にも迷惑をかけずに死ねる場所を探す」

「本気…なんだよね?」


僕は何も答えずに扉を開けようとする。その行動でなんとなく僕の答えを察したのだろう…


「悪いけど止めさせてもらう。力強くで…術式起動」


シャルが叫ぶとシャルの周りに鎖が現れる。そしてその鎖は僕を縛り付けて拘束した。


「っ…なんだよこれ…」

「君たちの世界で言う魔法ってやつだよ。すごいでしょ?」


魔法と言うチートに一般市民である僕が抵抗できるわけない。僕は大人しくすることにした。僕が、抵抗する気が無くなったのを悟ったからかシャルは鎖を緩めた。


僕は絡まった鎖を解くために手を動かす。その時に僕のポケットから何かが落ちた。


「それは……」


シャルは僕が落とした物を拾い上げる。何か、懐中時計のようなものだった。僕は時計は持ち歩かない主義なので身に覚えがない。


「これは………ねえ、大切な人…夢海さんだっけ?その子と世界が滅ぶ直前まで一緒にいた?」


シャルの質問の意図はわからなかったが僕は黙って頷いた。


「そっか、ならよかったね。たぶん夢海さんは生きてるよ。この世界とは別の世界にいるみたいだけど…」

「!!どういうこと?」


さっきまでの絶望とは全く違い希望を含めた声で尋ねる。


「たぶん、夢海さんも世界の渡り人、このマジックアイテムは夢海さんがいる世界を教えてくれる。だから、夢海さんはこの世界にいないってことはわかる。でも、たぶん夢海さんは生きている」


それを聞いた僕に少しだけ、希望が現れた。そして、生きている意味を見つけられた。


「夢海さんを探しに行きたい?」

「もちろん…」

「なら、私と一緒に世界を渡ろう。いろんな世界を回って夢海さんを探そう」

「ああ、絶対に夢海を見つけてやる」


僕は決意をした。

夢海を絶対に探しだすと、夢海と絶対に再会すると……

















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