第8話 目付 夏目清十郎②
五月晴れの雲一つない晴れた五月の七日。清十郎と雪乃の婚礼が清十郎の屋敷で行われた。
媒酌人は老中青山下総守。幕閣からも若年寄松平飛騨守、本多備前守ほかそうそうたる面々が参列した。
松平飛騨守が花嫁の父、佐々木丹波守に話し掛けた
「目出度いの。聞くところによると娘御は、まだ部屋住の夏目殿に嫁ぎたいなどと申したとか」
「左様、嫁ぐ家も無いのに、無茶なことを言いよりまして、頭を抱えました」
「しかし、その頃の夏目殿をよう見知りましたな」
「あ、いや、お恥ずかしい話でござるが、我が藩にちと騒動がござってな。国許に帰れぬため、夏目に騒動を収めてもらったことがあっての、礼の品を渡すため我が屋敷に呼んだのだが、その時、雪乃が一目惚れしてしもうて」
「なんと、夏目殿に騒動を収めてもろうたので」
「隠居した父親、酒井伊豆守殿に相談したら清十郎を国許に遣わしてな」
「夏目殿は剣の腕前も一流とか」
「左様、酒井家に代々伝わる干支流という忍び技の剣術を十三の歳で収め、京の鞍馬流に続き無外流も免許皆伝とか」
「天下泰平の世で、剣術など収める若者は少ない。番方の大番組や御先手組でも免許皆伝を得たなど聞いたことが無い」
「我らも幼き頃から剣術の稽古はしておるが、免許など程遠いですからの」
「礼の品は何を渡したので」
「太刀を一振り」
「ほう。剣術家には似合いの品であるのう」
宴も終盤、媒酌人の青山下総守が立ち上がり
「皆のもの、新郎夏目清十郎は上様の覚え目出度く財政改革の中、旗本に取立てられた。今は目付をしておるが、ゆくゆくは父親の後をついで大目付になろう。今後も夏目清十郎をよろしく頼む」
と頭を下げた。
皆から拍手が沸き、宴は終わった
婚礼の余韻が残る翌日、屋敷の奥では雪乃と桐、紫乃がいた
「桐殿、紫乃殿、これからは三人で清十郎様を支えて参りましょう。よろしく頼みます」
という言葉に二人とも恐縮した。
「私、清十郎様の若い頃の話を聞きたいのですが」
「桐は、清十郎様に仕えて、まだ数年でございますので、若い頃の事は存じませぬ。子之助なら知っておると思います」
「ならば、子之助を呼びましょう」
子之助が呼ばれて来た
「子之助、清十郎様の若き頃の話を聞きたいのですが」
「幼い頃からで宜しいですか」
「はい」
三人とも膝を乗り出した
「酒井家に男子が産まれますと、番方でございますから、三歳から剣術の稽古を始めます」
「まだ幼いのに」
「嫡男松之助様と清十郎様は同じ歳で、同じ頃から稽古を始めたのですが、松之助様は飽き性というか母君が甘やかしたお陰で我儘な性分で、何事にも長続きせず、一方の清十郎様は天賦の才があったのか、剣術、忍びの術を学ぶ事が大好きでしたな」
「忍びの術も学んだのですか」
「はい、手習いも四書五経を良く学び、周りが驚くほど覚えも良く、我ら家臣としては清十郎様に酒井家を継いでもらいたいと願っておりました」
「松之助殿は、噂にはぼんくらと揶揄されているようですが」
「はい、残念ながら」
「清十郎様は十三歳で剣の修行に京へ行かれたとか」
「はい。大殿はまだ若いと止めたのですが、松之助様の母君と仲が悪くなっておりまして、家を出たかったのでしょうな」
「一人で京まで行ったのですか」
「次男坊とはいえ、酒井家の子息です。清十郎様には感づかれないよう、我らが見守っておりました」
「それは良かった。道中何事もなく京へ着いたのですか」
「十三と言えば、まだ子供ですが、体躯も逞しく、背も早くから伸びておりましたので、歳相応には見られなかったのが幸いして、無事に着きました」
「わざわざ京の道場を選んだのは何故でしょう」
「剣術の本を読まれた時、京八流に興味を持たれたようで、その中でも源義経が学んだ鞍馬流を選ばれたようです」
「いきなり京の道場へ行って、すぐに入門できるものでしょうか」
「今は勘定奉行になられた安倍上総守様が、大阪奉行をされていて、上総守様と大殿は昵懇の仲で、上総守様に林崎道場への紹介状を書いて頂いたのです」
「そうだったのですか。京には何年修行されたのでしょう」
「三年でした。清十郎様の場合、その三年で免許皆伝を授けられたようです」
「三年で免許皆伝を受けられるのですか」
「いえいえ、とても難しいでしょう。他の方なら十年以上はかかると思います」
「そんなに」
和やかな話が交わされている奥とは違い、書院では黒鍬者の花が清十郎に面会していた
「花、何かあったか」
「はい、日頃より探索しておりました南割下水の御家人、島野五郎作について、お知らせに参りました」
「その御家人、何をした」
「江戸市中において、辻斬りを行ったもようで」
「辻斬りだと。斬られた者は」
「浅草浅草寺近くで小間物屋を商っていた尾張屋善兵衛と申す者で」
「島野が、辻斬りをしたという確たる証拠はあるか」
「たまたま、辻斬りの現場を黒鍬者が見ております」
「うむ。刀を砥ぎに出してなければ、血糊が残っていよう。その島野を暫く見張れるか」
「今も見張っております。動きがあれば、繋ぎが取れるようになっております」
「その見張りに家臣の干支組も付けたい。島野に見張りを見破れたら黒鍬者の命が危ない。連れて行ってくれぬか」
「承知しました」
「子之助」
「子之助は今、奥方様のところへ行っております」
「竜蔵か、お主、この花に助勢を付けよ。御家人に辻斬りの懸念がある」
「承知しました。花、案内してくれ」
花が屋敷を辞して四半時もした頃、徒目付、今村左近が訪ねて来た
「夏目様、お初にお目にかかります」
「お主は組頭かの」
「はい、三名いるうちの一人でございます」
「左様か、で本日の用向きは」
「いえ、ご挨拶に伺っただけでございます」
「今、抱えている探索はあるか」
「いえ、今は何もございません」
「ならば丁度良かった」
「何かございましたか」
「黒鍬者からの知らせでな、南割下水の御家人、島野五郎作に辻斬りの疑いがある」
「なんと、御家人が辻斬りですか」
「いま黒鍬者が見張っておるが、家臣を警護に付けた。徒目付も監視してくれ」
「承知しました」
「ところで、今村、そなた幾つになる」
「今年で五十三になり申す」
「跡継ぎは」
「遅くに産まれた、十八になる娘が一人おるだけで」
「養子を取らねばならぬのか」
「まぁ、それが中々でして」
「御家人の次男三男など、掃いて捨てるほどいるではないか」
「徒目付は、斬り会いになることもありますので、剣の腕も必要になります。そのような人物は中々見つからないもので」
「わしが通っている間宮道場には、腕の良いのが揃っているがの」
「御家人の部屋住みがおりましょうか」
「おる。剣の腕で養子先を探している」
「夏目様のお眼鏡に叶う者がおりましたら是非」
「されば、まず一人、そなたの加勢という名目で紹介しようか」
「それはありがたいことです」
「加勢の給金は、わしが出す。それで良いか」
「はい。助かります」
「ならば、三日後にまた来てくれ、その時会わせよう」
「承知しました」
今村左近が帰ったことを確認した清十郎は、早速間宮道場に向かった
井戸端で汗を拭っている門弟に声をかけた
「稽古は終わったか」
「夏目さん、久しぶりですね。まだ終わってないですよ」
「そうか、稽古して帰るか」
道場に入る夏目を見かけた門弟が、我先にと稽古を願った
「待て待て、先生にご挨拶してからじゃ」
「先生、久しく稽古に来れず申し訳ございません」
「清十郎、旗本に召抱えられたと聞く、目出度いの」
「はっ、ありがとうございます。ですが城勤めは肩が凝って、性に合いませぬ」
「ははは、贅沢を言うな」
「先生、実は少しご相談があるのですが」
「左様か、だが見てみろ、お主に稽古をつけてもらおうと弟子たちが待っておる。稽古が終わってから聞こう」
稽古着に着替え、木太刀を持った清十郎に門弟が群がった
「さて、誰から行こうか」
一番手は中川三太夫、御家人の三男坊である。過日道場破りに負けてから天狗の鼻を折られたせいか、一層稽古に励んでいる。
中段に構えた中川は、中々打ち込めないでいた
「中川、打ち込まぬと稽古にならぬぞ」
意を決したか、丹田に気を込め打ち込んで来たが、さらりと躱され腰を打たれた
「中川、まだまだだの」
次に挑んだのは御家人の次男坊で、道場で三番手にまで成長した三村紀三郎である
清十郎は、この三村と中川とで迷っていた。
三村は中段に構え、清十郎の喉元に狙いをつけた、すっと少し引いて踏込み良く鋭く突いてきた。素直な剣である
ゆらりと避けた清十郎が三村の胴を抜いていた
「うーん、中々打ち込めませぬ」
「いや、良い突きであった」
その後十人の相手をした清十郎は、師匠の許しを得て稽古を終えた
「清十郎、奥に行こう」
「はっ」
奥の書院に座った清十郎に
「相談とは何かの」
「はい、徒目付の一人に養子の紹介を願われまして、ただ務めが徒目付ですから、剣の腕も必要になります。そこで門弟の中から紹介しようかと」
「ほう、それで清十郎は誰を考えておる」
「中川か、三村を」
「中川は己の腕に溺れるところがある。俗に言う自惚れ屋だの。その点、三村は己の弱さを知っておる。徒目付とは斬り会いもあろう、二人とも真剣勝負の経験はない。いざ斬り会いになった時、中川であれば怪我をするやもしれぬな」
「では三村で」
「そうだの。場数を踏めば良い徒目付なろう。養子の話をするか」
「いえ、徒目付の方も三村の人となりを見たいだろうと思いまして、徒目付の加勢と称して紹介しようかと」
「それは良い考えじゃ。三村を呼んでくれ」
呼ばれた三村が書院に来た
「先生、何か」
「清十郎の配下に徒目付がおっての、探索の加勢が欲しいそうじゃ。お主行ってみぬか」
三村の目が輝いた
「私でよろしいので」
「探索の最中に斬り会いになるやも知れぬ、ある程度の腕と胆力が必要になる。怪我をするかもしれぬが」
「是非やらせてください」
「三日後、わしの屋敷に来てくれ」
師匠と夏目の眼鏡に叶ったという思いで三村は嬉しかった
三日後、清十郎の屋敷の書院には今村左近と三村紀三郎がいた
「三村紀三郎と申します」
「今村左近じゃ。よろしく頼む」
「今村よ、此度の探索は長きに渡るやもしれぬ、費えも掛かるゆえ、これを使ってくれ」
と清十郎が巾着を目の前に出した
「これを私に」
「他の組頭にも渡しておる。遠慮なく使ってくれ」
「ありがとうございます」
今村は、その重みに驚いた
「あの、いくら入っているので」
「五十両分を使いやすいように小粒にしておる」
「そんなに・・・よろしいので」
「良い、余ったら借財の返済に使え」
今村は感激で言葉が出なかった
「三村、お主には加勢の給金をこれに」
と巾着を渡した
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
「探索は根気のいる仕事じゃ、今村の命に従い、決して勇み足はするなよ」
「肝に命じます」
清十郎の屋敷を出た今村は、夕刻ということもあり三村を家に誘った
「三村殿、時刻も時刻じゃ、我が家で夕餉を食してから探索に参ろうか」
「よろしいので」
「構わぬよ。同じ御家人じゃ、上等な飯ではないがの」
と笑った
今村の屋敷に着くと
「ただいま帰った」
「おかえりなさいませ」
と奥方の八重と娘の里江が出迎えた
「今日は客人を連れておる。夕餉を済ませたら探索にでるでな」
「畏まりました」
「それとな、これをお目付様から頂いた、当面必要な金子は抜いておる。後は預ける」
と巾着を渡した
「重いのですが、いくら頂きましたので」
「驚くな、五十両じゃ」
「え・・・」
暫く固まっていた八重に
「夕餉を急いでくれ」
と伝えて座敷に入った
夕餉を膳に出しながら
「何もお構いできませんが」
「いえ、私も御家人の次男坊です。家より豪華です」
と答えて笑った
「さて、食べながら話そう」
「では、頂きます」
「三村殿は、いくつかな」
「ニ十三になります」
「間宮道場に通って、何年になられる」
「もう十年になりますか」
「ほう、十年。稽古も厳しいと聞くが、目録までは取られたか」
「昨年、やっと頂きました」
「なるほど、では道場では上位の方か」
「まぁ、そのように思っておりますが、師範代には到底かないません」
「師範代とは」
「夏目様です」
「夏目様は相当強いと聞くが」
「強いという域ではありません。あの方は鬼と呼ばれていますので」
「鬼とは、また大仰な」
「決して大仰ではないのです。これまで道場破りが、数多来ましたが、ことごとく退けました。師匠の言うには修羅場を潜った数が違うと」
「なるほどの。父君の手伝いで諸国を探索されたと聞くが、剣を交える修羅場も多かったのであろうな。ところで三村殿は養子先は無いのか」
「今の道場通いが邪魔をしているのか、昨今は番方より算術のできる勘定方の方が求められるようで、中々ございません」
「左様か・・・では、探索に参ろうか」
南割下水の島野の屋敷を監視している場所へ向かった
竜蔵組の竜吉以下の下忍三人と黒鍬者三人が見張っていた
「どうじゃ、夜も遅くなったが出てくる気配はないか」
「今村さま、今夜も出ないかもしれません」
「昼間はどうしておる。無役であろう」
「ここ数日は出ていません」
「三村殿、今宵はもう遅い、出歩く者がいなければ辻斬りにも出るまい。明日、昼から監視しようか」
「承知しました。明日昼にここで」
「黒鍬や干支組は夜も監視するのか」
「何があるか分かりませぬゆえ、交代で見張ります」
「では我らは退散する」
翌日の昼、監視の場所に今村と三村がいた。
「昼間っから出るでしょうか」
「辻斬りには出るまい」
「では、昼に監視するのは何故でしょうか」
「前の辻斬りから四、五日は立っている。刀に血糊が付いたままでは錆びてしまうであろう」
「はい」
「必ず砥ぎに出すはず」
「そこで血糊を確認するのですね」
「左様。だが、島野と付き合いの長い砥ぎ師だと詳しく聞けぬがの」
監視を始めて一刻半が過ぎた頃、島野が屋敷を出てきた。手には太刀を持っている
「やはりな、砥ぎに出すつもりじゃ」
「つけましょう」
「かなり合間を取らねばならぬ。わしが先に行くゆえ、お主は五間ほど遅れて参れ」
南割下水を出た島野は本所方面へ歩き、中野町の砥ぎ屋に入った
「どうしますか」
「血糊をみたいの」
「では、私にお任せを」
「どうするのだ」
「砥ぎを頼む体で入ってみます」
と三村が砥ぎ屋に入って行った
「お待たせしました島野様、砥ぎでございますね」
「ああ、頼む」
「では拝見いたします・・・島野様、血糊が付いておりますが如何がなされました」
「野良犬が向かって来たのでな、斬ってしもうた」
「左様ですか」
「どのくらいかかる」
「今立て込んでおりますので、七日ほどかかりますが」
「では頼む」
と店を出る際に三村に一瞥をくれた。「そちら様も砥ぎでございますか」
「始めて砥ぎに出そうかと来たのだが、いくら掛かるのか聞いて見たいと思うての」
「太刀はニ分、脇差は一分でございます」
「そんなにするのか、出直してくる」
と店を出た
島野の姿は無かった。今村の所に着いた三村は
「血糊がありました。犬を斬ったと申しておりましたが」
「やはりな。島野は店を出てから暫く店前で中の様子を伺っていたぞ。気取られたかと思ったが、少しして屋敷の方へ向かって行ったわ」
「店主に砥ぎ料を聞いて、出直してくると言いましたので、貧乏御家人と思ったのでしょう」
「御家人の貧乏は今に始まったことではないがの」
と笑った
一旦、今村の屋敷に戻り夕餉を馳走になった三村は
「刀を砥ぎに出せば辻斬りもできませぬな」
「もう一振り持っていたら、やるかもしれぬ」
「では、今夜も見張りですね」
「うむ、砥ぎがいつ出来上がるか聞いたか」
「七日後と言うておりました」
「それまでは、出ないと思いたいがの」
それから五日がたった夜の戌ノ刻、島野が頭巾を被って屋敷から出てきた。
「今村様、出て来ました」
「やはり、もう一振り持っていたか」
黒鍬者が先に尾行し干支組が続く
その後ろを今村と三村がつけていった
南割下水から、本所を通り両国へ向かった島野は、物陰に隠れた
今夜は新月の闇夜である。提灯を持つ町人が来れば良く分かる
「三村殿、斬り会いになっても、斬ってはならんぞ、峰打ちにするように」
「今村様、無外流に峰打ちはありません」
「どういうことだ」
「膝や腕の筋を斬るのが無外流の峰打ちです」
「そうなのか。仕方ない殺すよりは良いか。裁きを受けさせねばならぬからな」
遠くに提灯がぼんやりと見えた
誰かが向かって来るようだ
その時、島野も動いた。物陰からすっと前に出て歩き出したのだ
監視している全員に緊張が走った
島野は前を歩いてくる提灯の人間を注視している。後ろからつけている黒鍬者たちには気付かない
提灯が、およそ十間ほどに近付いた
島野か鯉口を切る音がした
黒鍬者がそろりと近づく
島野の鞘走りの音が聞こえた。剣を抜いたのであろう
提灯を持つ者は町人であった
暗闇の中で町人に島野の姿は見えなかった
提灯の灯りか、上段に振り上げた刀が光った
「危ない」
花が叫んでしまった
その声に島野が振り返り、花へ向かって来た
避ける間もなく、花に刃が切れ込んだ
竜吉が間に入り花を後に庇う
そこへ三村が間に合った
振り下ろした刃を弾いて中段に構える
「島野、止めろ」
「貴様は誰だ」
「徒目付・・・の加勢だ」
「なに、徒目付だと」
島野は八相に構え直した
三村は中段の構えのままである
島野が八相から振り下ろして来た
三村は峰で弾き、右腕の肘に切っ先を入れた
「うっ」
と声を上げ後ろを振り返ったが、後ろには今村が刀を抜いて構えている
そのまま三村に襲い掛かったが、右腕を斬られたために刃風が遅い
ゆるりと避けた三村の刃が島野の左膝に入った
思わず倒れた島野を干支組と黒鍬者が取り押さえた
花の怪我が気になった三村は
「花、大丈夫か」
「少し・・・斬られただけです」
「いかん、担いで夏目様の屋敷にむかうぞ」
先に夏目の屋敷に戻った竜吉が、事態を話した。後から担がれてきた花を紫乃の庵に入れ、紫乃の手術が始まった。
花の傷は深かったが、ニ刻後、無事に終わったようだ
清十郎も花の容態が心配で近くで見ていたが、紫乃の安堵した顔を見て、張っていた気が落ち着いた
「紫乃、大事ないか」
「血が流れたようですが、早く連れて来たのが幸いでした」
「良かった。黒鍬の頭に会わす顔が無くなるところであったわ」
「今村、事の次第を」
「はい、島野が町人に斬りかかるところに、花が声をかけてしまい、島野に気付かれました。島野が町人ではなく、花に向かって斬込み、斬られてしまいました。竜吉が間に入り、後に庇ったとき、三村が島野の刃を弾き腕を斬り、膝を斬ったところで、取り押さえたました」
「そうであったか。他に怪我人はおらぬか」
「他は無事でございます」
「黒鍬者はおるか」
「はい、ここに」
「急ぎ佐田金兵衛を呼べ」
「はっ」
半刻後、佐田金兵衛が来た
「金兵衛、すまぬ。花に怪我をさせてしもうた」
「夏目様、花は勤めを果たしたまででございます。手厚い医術を施して頂きありがとうございます。お陰で花は生きております」
と深々と頭を下げた
島野五郎作は後日、斬首の刑に処せられた
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