第23話

 アルバティア駅で乗り換えて、一夜を過ごした。

 食堂車で朝食をとると、廊下から風が一気に吹き抜けていく。

 長い黒髪を風になびかせているけれど、旅行が終わってから髪を切ろうと決断した。


(早く切りたいな、邪魔だもん)


 緋色の髪紐を使いたいけれど、思いつく髪型がわからないと考えている。

 そこからはもうノンストップでアリ=ダンドワ駅に向かう。

 間もなくエリン=ジュネット王国へ着くというアナウンスが聞こえてきた。


 アンはトランクに荷物をまとめて、部屋で待っていた。

 今年の旅行はとても楽しかった。

 それに母のことも知ることができたし、伝えることができたから。

 ハインブルクの砦で母を見たとき、自分に伝えてきてくれたものがあった。


「アン、あなたの好きな人生を歩んで。これから見守っているわ、愛してる」


 それは彼女が一番望んでいることだと感じたのだ。



「あ、スミス中佐」

「おや。アンさんじゃないですか、どうされたんですか」


 一度図書室に向かうと、そこにはスミス中佐が読書をしているのが見えたのだ。

 手にしているのは少し前に読んでいた本だったのがわかった。


「あの。その本、とても好きなんです」

「え、本当に?」

「はい。たぶん好きな本とか似てると思うんです」


 スミス中佐はすぐに笑顔になってすぐに話し始めた。


「本当ですか? 俺、アレクサンダー・ミシェルの作品とかよく読むんだけど、あまり同年代で話す人がいなくてね……やっぱし若者向けなのかなって思ってて」

「それ! めちゃくちゃ好きです。わたしも見たりしています」


 その言葉を聞いて嬉しそうに彼女が話しているのが見えたりしている。

 彼らの話はお互いに好きな作家のことを話しあって、そのままうるさくしてもよさそうなバルコニーへと向かった。


「本当にうれしいよ。よかったら、友だちとして本とかの話を聞かせてほしい」

「え、本当ですか! もちろんです、でも……わたしが忙しいので手紙のやり取りでいいですか? 学生寮の住所を教えます。実家に送ると、お父さんがショックを受けちゃう」


 それを聞いてスミス中佐も笑顔で納得したようにうなずいた。


「そうだね。わかった。この住所に手紙を最初に書けばいい」


 お互いに住所を手帳に書き、すぐに歩いて部屋に戻っていくのが見えた。

 アンの心臓が速くなって、とても信じられないような出来事が多かった。


(やった! これで話せるんだ)


 彼女は人生の大きな出来事に関する未来が起きることはまだ知らない。





 しだいに空が夕暮れに向かってオレンジに染まり始めたとき。

 ウィリアムは列車の座席に揺られて目が覚めた。

 窓の景色は次第に夕暮れに向かっていて、娘のアンが向かい側の席に座っているのが見えた。


「あ、おはよう。もうすぐ駅に着くよ」


 彼女の姿にある日の光景が思い浮かんだ。

 それは初めて妻に会ったときのことだった。

 同じ部隊に首席で士官学校を卒業したばかりの十七歳の少女が配属された。


 髪は艶やかな漆黒であり、その長い髪を緋色の髪紐で結い、その瞳は自分よりも濃い茶色で黒にも見えるときもあるくらいだ。

 幼さがまだ残る顔立ちをしているが、実年齢よりも幼い年齢に見えるかもしれない。それがアズマ人などの極東地域の血を引く人物の特徴だと感じた。

 しかし、すぐに見て感じたのは魔力の大きさだった。


「本日より、魔法攻撃部隊に配属されました。ハナ・サクラノミヤです、アズマの生まれですが、国籍はエリン=ジュネットです」


 とても流ちょうなエリン語で彼女がサクラノミヤ家の出身ということで納得した。


「なあ。ビル、あの子いいね」

「そうだな……それに品もあるし、サクラノミヤ家のご令嬢だ」


 そのときに同じように話していた同僚たちは黙って彼女を魅入るウィリアムを見ていた。

 ハナを見たときに一目ぼれしていたのかもしれないと、いまになっても遅いかもしれない……それから結婚するまでに二年くらいはかかった。


 それでも、アンが生まれてからも幸せな時間を過ごせている。

 それができたのもハナがいてくれたからだ。


「お父さん。明日は学院にすぐに戻るね」

「そうだね」





 そして、夜の帳が下りた午後七時半。

 赤レンガの巨大ターミナル駅であるアリ=ダンドワ駅には二十両編成の大きな蒸気機関車が滑り込んできた。

 鉄の車体につけられた金色の星が象られた意匠はこの列車の名を冠したものだと知るだろう。










 その名は『Stella号』、大陸横断鉄道という。









 二人の父娘旅が終わりを告げたのは午後八時。

一度アンはすぐに家に主に大きな荷物を置き、今日は久しぶりに家で寝ることができてホッとしたのかすぐに寝てしまった。

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