ハインブルク(ロジェ公国)
第8話
首都ユーリエブルクから南にある都市ハインブルク。
もともとはのどかで農村の多い片田舎であった。
さらに第二次大陸戦争時の最終決戦地でもあり、激しい戦闘を繰り広げた場所でもあるのだ。
その戦闘により、多くの住居が破壊され、地形の変化もしているところがある。
現在では現代的な建物が多く建ち並んでいて、ここ数年で建てられた建物が多い。
そのためか『歴史のある街ユーリエブルク』、『これから歴史を作っていく街ハインブルク』といった対比をされることが多い。
さらに若者に人気の流行りの店や国内最大手の店などがメインストリートの大通り沿いに出店しているためか、休日は多くの若者がこのメインストリートに来て賑わいを見せているようだ。
ハインブルク駅にやってくると、メインストリート近くにあるホテルへと入った。
そこは戦後開業したホテルで、国内外では評判の場所だった。
アンとウィリアムはすぐにホテルのフロントへ歩みを進める。
エントランスホールは開放感のある吹き抜けで、天井からはとても大きなクリスタルで飾られているジャンデリアが輝いている。
そして、ソファやテーブルのほとんどに人がいるので、とても人気のあるホテルなのだということが実感できる。
「すみません。予約していたアンダーソンです」
父が通訳をなしに手続きをしていくと、すぐにホテルのキーを用意してくれていた。
いまだに流ちょうに話す父の姿に少し違和感を感じているが、あまり聞き取れる単語が少しずつ増えてきている。
「アン、荷物を預けることができるらしい。チェックインしておいて、一度出かけることも可能だと」
「じゃあ、預ける。重いもん」
トランクは着替えなどが入ってるので、女性が持つと片手では上手くバランスを取ることが難しい。
アンは父にトランクを渡すと、すぐにフロント係にそれをカウンター内側にあるロッカーに入れていくのが見えた。
そして、ロッカーキーをフロント係はアンたちに渡すと、ホテルの外へと出て散策をすることにした。
ホテルの目と鼻の先は観光地となっているメインストリートには若者の他に家族連れも来ているみたいだ。
「建物は景観に合わせてるんだね」
「うん。そうみたい。とてもきれいなお店が多いね」
建物の高さが決まっているのか、だいたい三階までの建物が多い。
そのなかでアンもハインブルクの店のショーウィンドウを見ながら、歩いて行くなかでアクセサリーショップの前で立ち止まった。
「お父さん、あそこのアクセサリー、きれいじゃない?」
ショーウィンドウに置かれたアクセサリーは、どれもきらびやかな装飾が施されたバレッタが置かれてある。
そのなかで一番長く見つめているのはシンプルで装飾も派手ではないデザインの物だった。
「アンはこういったものが好きなんだ。きれいに作られているし、とても素敵だと思うよ」
だいたい彼女が好んで買うものはどれもシンプルなものが多めだ。
アンは少し恥ずかしそうな笑みを浮かべてすぐにトランクを片手に歩き始めた。
「お父さんもそう思うよね! ハインブルクはたくさんきれいなものがあるって、前に旅行しに来た同級生に聞いたの」
そのまま楽しそうに父の手を引いて、いろんな店のショーウィンドウを見に行くことにした。
普段は絶対こんなことはできないので、アンはとても嬉しくなっていた。
「アン。次はどこに行くんだい?」
優しく問いかけながら、少し早歩きなってくる娘に苦笑いしている。
足早に歩いたその先には青銅色の建物がすぐに見え、その出入口には広げられた本にペンがクロスする看板があった。
ここはロジェ公国のなかでも大手と呼ばれる書店で、国内最大規模の店舗の広さを誇っているのだ。
「ここに一回、行ってみたかった」
目を輝かせてその多き案建物を見て、書店に足を踏み入れたのだ。
その書店は三階建てで店内はまるで図書館のような吹き抜けが広がり、その壁一面は全て商品の書籍で埋め尽くされていた。
「アリのでかい書店でも、この規模はなかなか見れないぞ」
「すごいね。ここの本の多さ」
父と共にその書籍の多さに圧倒されつつ、お互いに気になる分野の棚に行くことにした。
ロジェ語で書かれた絵本を手に取ると、その絵を見て思わず笑みを浮かべていた。
「懐かしい……これ」
それは幼い頃に読み聞かせをしていた絵本のロジェ語訳だったが、見慣れた絵が描かれているので思わず手に取ったのだ。
その話は一人の騎士が姫君を救う物語であり、大陸でも多く読まれている英雄譚の一つだった。
「家にあったような気がする……帰ったら、探してみようかな?」
英雄譚は様々な人物が主人公となり、書かれ方も多岐にわたっている。
その他にも騎士となった王女と隣国の王子が国を守るために悪評高い皇帝へ立ち向かったりするのもある。
その本を戻して、別の書棚へと移動することにした。
その次に向かったのは旅行記が置かれた棚であり、ロジェ語の綴りを見ながらようやく見慣れた文字が出てきた。
アンは文房具が置かれた二階に降りると、そこにはレターセットやペンやインクなどの文房具が置かれた場所だった。
「あ、きれい。このレターセット」
それはロジェ公国で親しまれている柄が凹凸で表現されていて、そのなかでも安価なものをアンは手に取った。
その凹凸は活版印刷で刷られたもので、とても淡い色合いで刷られている。
それは淡い色合いが特徴のレターセットだった。
それとセット販売されている封筒は淡い紅色で幾何学模様が濃い紅色で縁取られている。
「きれいだな……これにしようかな」
その色合いはまるでアズマに桜が満開になった頃に似ていて、とてもきれいな封筒でそれを手に持って一階へ階段に降りていく。
「アン。何か買うものを決めたのかい?」
「決めてきた。このレターセットにしたよ」
父が持っている本とまとめて会計して、書店をあとにすることにした。
ちょうど昼食の時間帯になっているので、
「お父さん、あそこのレストランにしよう! あそこはとても安いみたいだし」
「いいよ」
そのレストランはウィリアムが知っている店なので、すぐに歩いて行くことにした。
書店からレストランへ行くのは徒歩十分くらいの場所だと教えてくれた。
「来たのは十五年以上前だから……記憶を頼りに行くしかないな」
「ええ……大丈夫なの?」
ハインブルクの区画も過去の区画とはかなり変化しているので、周りの風景を頼りにすることもできない可能性が高い。
「大丈夫だ。すぐに行ける気がする」
「大丈夫じゃないじゃん。お店の名前はわかるの?」
「うん。そこはわかっている」
「それなら、がんばって」
なんとなく軽い会話を繰り返しながら、父の後ろをついて歩いて行くことにした。
アンがあたりを見ていると、小高い丘にある貴族の邸宅らしき屋根が見えた。
「お父さん。あのお屋敷ってなに?」
「え、あれは……あとで話すよ。これから混むかもしれないから、早めに行かないとレストランは混むから」
ちょうどお昼のため、飲食店街には人々がしだいに多くなってきた。
「そうだね。早く行こう」
「うん。そうだね」
再び歩き始めると、すぐに安心したような表情をしているのが見えた。
「あったよ。アン」
それはこじんまりとしたレストランがあって、とても
そのときにしだいに雲行きが怪しくなってきているのを見て、少しアンはこれからの天候に不安を抱き始めていたのだった。
レストランに入ると、満員で少し外で待つことになってしまった。
「ごめんね。アン」
「大丈夫だよ。お父さん」
「お待たせいたしました。ご案内します」
そして、二人はレストランのなかに再び入った。
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