第2話 「フライパンへこんでるって!」

 真っ暗な中で光がともる。

 「緑・・・これは芝か」

 「ロザリー!」

 「ベレティ、今日は何をして遊ぶ?」

 俺の口が勝手に動く、「「待て待てなんだこれは!なぜ俺はこの子の名前を知っている」」夢にしてもよく出来すぎている。

 「湖に行こうよ!すごくきれいなところを見つけたんだ!」

 「別にいいけど、あまり王国から離れるとまたお父さんに怒られるよ」

 「わかってるって!ささいこいこ!」

 ベレティなる少女は森のほうに向かってそそくさと行ってしまった。

 「ま、まってってー」

 俺?も後をついていくことにする。ベレティの後を追っかけて十分ほどたっただろうか空を覆っていた森林は目的らしい場所に着くと開けていた。急に現れた太陽にまぶしさを覚え、思わず目をつむってしまう。数秒たって目を開けるとそこには芝と森林に囲まれ水底まで見える透き通った湖、と裸の少女。

 「って!なんではだかなんだよぉおお!」

 あれ、思ったことが口に出た?いや違うかたまたま同じことを言っただけか。

 「ほら、ロザリーも!服脱いで!一緒に遊ぼうよ!!」

 いやさすがにそれは・・・。

 「わかった」スルッ

 ん?スルッって!何脱ぎ始めてんだよ俺ぇぇぇえ!いや待て冷静になれ。声音からして俺もおそらく幼女だ。焦る必要はない。俺は大人だぞ・・・大丈夫だよな?

 「ほらこっち!つ~めたくて気持ちいよ!」

 湖に入ると自分の顔が反射して見える。

 え?湖に移る自分の顔を見て固まる。髪の色は赤長さは肩までできれいに切りそろえてある。瞳は深みのある水色・・・。どう見てもロザリーだ。ただし子供。

 「ん~!きもちいー!」

 ね?いいでしょ?とベレティが視線を送ってくる。

 「ん」

 小さくだがロザリーも返事をした。続けて口を開く。

 「私こんなきれいなところがあったなんて知らなかった」

 「私も!ここはねアトラス王国を少し西に行った山のふもとよこの間大英雄アーサー様といったの!」

 「アーサー様ってあの!?」

 「うん!そうよ!」

 大英雄アーサー、その名は人族ならば誰もが知っていて、男女問わず誰でもあこがれる存在。ただし数十年前に姿をくらませた英雄だ。やっと合点がいった。現在、アトラス王国の西側は山などがそもそもない今では平地になっている。そこにまだアーサーが存在した時の話。つまりここはロザリーの過去となる。正確に言えばロザリーの過去の記憶。俺の知らない少女の名前まで知っているのもそれで合点が一致する。

 そのあとは湖で一通り遊び、帰り道。どれだけ遊んだのだろう。日はとっくに沈みかけていた。若いとやっぱ体力があるなぁなんておじさん臭いことを思っていると、前を歩いていたベレティがロザリーに声をかける。

 「ねぇねぇ、ロザリー。将来は何になるの?」

 「んーまだ決まってない」

 「じゃあさ!私専属の騎士になってよ!」

 「なんで?」

 「私は王族の家系で、ロザリーは騎士の家系」

 ベレティは自分とロザリーを順番に指をさしながら幸せそうに話す。

 「このままじゃ、会えなくなっちゃう」

 ベレティの顔から笑顔が消える。

 「でも。ロザリーが私専属の騎士になってくれればずっと一緒にいられる!」

 ロザリーは少し考えこむ、騎士になるには相当な訓練が必要だ。ましては女性の場合はそれ以上に厳しくなる可能性がある。でも・・・。

 「でも・・・私じゃ無理だよ。父上が言ってた。そんなことで値を上げる奴は騎士どころか兵士にも慣れないって」

 「大丈夫だよ!ロザリーなら!」

 ベレティの考えなしの発言に少し頭にくる。

 「!そんなこと!なんでいえるの!」

 「ん~わかんない」

 ほらやっぱり。みんな私に期待なんて・・・。

 「でも、やっぱりロザリーならできる!なぜなら私の勘がそういっているからだ!」

 思っていた以上に考えのない発言が彼女から出てきたのでロザリーはあっけにとられていた。考えなしにもほどがある。でもなぜか彼女の言葉は信用で来た。それはロザリーが彼女のことをよほど信用しているのか、それとも彼女の本気のまなざしに安心させられたのかはわからない。それでも。

 「わかった。私、頑張ってみる!」

 彼女の心を揺るがすのには十分だった。

 ロザリーの言葉を聞くとベレティの顔がパァア!と明るくなる。

 「じゃあ約束ね!」

 「うん!」

 ベレティとロザリーは強く小指を結んだ。



目が覚めるとそこには見慣れた天井が広がっていた。横には俺が寝ていたベッドに突っ伏す形で寝ているロザリーフランカがいた。あまりにも気持ちよさそうに寝ていたのでゆすって起こそうとした手を自分の元に戻した。彼女を起こさないようそっと起き上がり、自分の部屋を出る。俺の家は店の裏にあるのでそのまま店に向かう途中、異常なほどのの渇きがあったのでキッチンに向かうとエレナがいた。

 はっ!と俺に気づき、子小走りで寄ってくる。

 彼女のこんな慌てた様子を見たのは初めてだったので少しびっくりした。

 「どうしたんだよエレナそんな慌てて」

 彼女はまたもやはっ!とし、自分のキャラを思い出したように、元の冷たい表情に戻る。

 「別にどうもしていませんが」

 「俺、どのくらい寝てた?」

 「十時間ほどです」

 十時間・・・。

 「丁度夢の中でベレティといた時間もそのくらいだった」

 「ロザリーさんの過去の話ですか?」

 「うん、ん?エレナ何で知ってるんだ?」

 「店長が倒れた後、ロザリーさんに聞きました」

 「そうか」

 「そういえばロザリーさんが見当たりませんが・・・」

 「ロザリーなら俺のベッドで寝てたから起こさないようここまで来たんだ」

 そう言った途端エレナの肩がピクリとする。

 「ちょっと起こしてきます」

 「いや別に起こさなくてもいいんじゃないか?」

 「・・・」

 急に黙ったので気になり後ろを向くと、ゴゴゴゴゴゴゴと、闇魔法的なものがエレナから出ていた。おお~なんだこれ。すごい。ってかなんで怒ってんだよ。

 「お前って闇魔法って使えたっけ」

 「少々」

 「そ、そうか」

 「ちなみに一つ質問なんですが」

 エレナが聞いてくる。威圧がすごい威圧が。

 「どうした?」

 かなりの威圧に変な返しになってしまった。

 「先ほどの「俺のベットで寝ていた」とはどのように」

 「いや、普通に椅子に座ったロザリーがベッドに突っ伏す形で・・・」

 ゴンッ

 「ぬぉおおお」

 俺は頭を押さえてうずくまる。フライパンで殴られた。痛いなんてものじゃないフライパンへこんでるって!

 「なにすんだよ!」

 「こちらのセリフです」

 何がだ!

 「店長が誤解を招く言い方をするからです」

 「あってるだろ、ロザリーが!寝てるじゃん!俺の!ベッドで!」

 「もういいです!」

 エレナはムスッと頬を膨らませすねながら先ほどまでやっていたことに戻った。何をやっているんだろう。あんな子供っぽいエレナは久しぶりに見た。


 数年前、俺が料理亭を出したころ。調理スタッフが足りなくて募集をかけた。エレナとはその時に初めて出会った。腕もよく、当時は愛想もよかったので当然断る理由もなく採用した。それから数日が立ちエレナがもじもじした様子で話しかけてきた。

 「て、店長!あの!わ、私のことって覚えていますか?」

 ん?どっかであっただろうか。

 「・・・ごめん、どっかであったことあるっけ?」

 そういうとエレナは、しばらく固まり先ほどのような顔で「もういいです!」とフライパンで俺を殴り調理場に戻ってしまった。それ以来だ。ていうかなんでいつも何の躊躇もなく店長をフライパンで殴れるの?店主怖くて怯えてるよ・・・。

 

 あ、そんなことより。

 「え、エレナさん」

 「何ですか?」

 「あの後店はどうした?」

 「客もいなかったので閉めましたが?」

 「そ、そうか、ありがとう」

 そうこうしているとロザリーが目をこすりながら調理場に入ってくる。

 「あぁ、店主。いつの間に」

 「よく眠れたか」

 俺が言うと思い出したかのようにロザリーの顔は赤くなる。コホンと咳ばらいをし「まあな」といった。

 「そういえば」と夢の中で、ロザリーの過去を見たことを話した。

 するとロザリーは真剣な面持ちになって「すまなかった」と誤ってきた。

 「あれは、お前の能力なのか?」

 「あぁ、そうだ」

 改めて言うがこの世界には魔法、魔術、剣術という概念があるほとんどの人は根本的にはすべて同じ分野なのだが生活のために使う生活魔法。物騒な言い方をすれば人を殺せない魔法。ゆえに生活で使うことになる。一方魔術、剣術は使い方は違えどどちらも威力が高く人を殺せてしまう。その三種類のどれかを持って生まれることが多い、だがまれに

もともと三種のどれかを持っているにもかかわらず。再び新しい術が発生することがある。その術のことを異能力という。その能力が人に宿る瞬間を二次覚醒という。

 数年前、技術がなかなか上がらなく生きず待っていた時にに突然二次覚醒が起きたという。その後討伐隊結成時現在もリーダーである男にスカウトをされたらしい。

 ロザリーの異能力は「思念伝達」思ったことを相手もしくは複数人の脳内に直接伝達することができるとのことだ。

 「伝達技術があまり発展していないこの国では最強なんて言ってるやつもいたな」

 ロザリーがどこか遠い目をして言う。思ったことがそのまま相手に伝わる。言い方を変えれば気を抜いてしまうと、伝わらなくていいことも伝わってしまう。

 「・・・そうか、それでロザリーの過去が・・・」俺に伝わってしまったんだろう。

 考えたことがそのまま人に伝わってしまう。いったいどれほどの努力をすれば普通の生活をできるようになるんだろう。少し考えてみたがそれはあまりにも果てしなく答えのないものだった。

 「これであの夢のことは納得いくものになっただろう。店主が倒れたのは私私の心が乱れ制御を誤り、記憶そのものを送ってしまったからだろう」

 これは私の弱さのせいだ。本当にすまない。とロザリーは頭を下げた。

 「頭を上げてくれ、仕方のないことだ」

 「ありがとう、この埋め合わせはいつかするよ」

 「ああ、そうしてくれ」

 「ところで店主よ、何を見たんだ?」

 「え?」

 「私の記憶だ。自分ではわからないんだ。さすがに私の過去をすべて見たわけじゃないんだろう」

 「そういうことか、ベレティっていう子と湖で遊んだ時の夢かな」

 ロザリーは少し目を見開いた後落ち着きのあるような、どこか寂しそうな声音で話し始めた。

 「あの時か・・・」

 「答えたくなければいいんだがあの時の約束はかなえることができたのか?」

 自分自身無神経なことを言っている自覚はあったが。なぜかほおっておけない問題の気がした。

 ロザリーは言おうとして、やめ。また言おうとして、やめを数回繰り返した後。

 「約束は・・・守れなかった。」

 と、一言だけ言った。

 「そうか・・・」

 「ベレティという名前どこかで聞いたことはないか?」

 「ベレティ・・・!まさか」

 「あぁ、そうだ」

 なぜ気づかなかったんだろう。大戦争でこの国が相手にするのはベレティナ大帝国。

 「ベレティナ大帝国の・・・」

 ロザリーはこくんとうなずき。

 「第一王女だ」と言った。

 「ずっと一緒にいるどころか今では敵になってしまった」

 どこか遠いところを見るようにロザリーは言う。

 何も言ってあげられなかった。今、目の前にいるのは討伐隊であるロザリーフランカではなく、一人のどこにでもいる少女。そんな女の子を慰めてやることもできなかった。

 そんな自分が情けなかった。

 「だから、強者を集め敵国に圧倒的な力の差を見せつけることで幸福をさせようとしたのか」

 ロザリーがそうだとうなずく。俺の中ですべてがつながった。ロザリーが強者を探していることもなぜそんなに焦っていたのかも。そんなことを考えていると。ロザリーが突然頭を下げた。

 「おい、どうした」 

 「そこで店主に折り入ってお願いしたいことがある。エレナートさんを兵士として大戦争に加えさせていただきたい。迷惑をかけたうえで図々しいにもほどがあるのも知っているもちろん断ってくれてもかまわない!」

 今では敵になってしまった、だとしてもベレティが敵対するには何か裏があるはずなんだ。とロザリーが言う。今の所は何の根拠もない、ただ友人を信じたい。だから敵国に圧倒的力を見せつけ降参させたい。そうすればお互いできるだけ被害が少なく大戦争が終わる。

 「ロザリーお前自分が何をしようとしてるかわかってるのか?」

 彼女がしていること友人を救い被害もなく戦争を終わらせたいそれだけを聞くと聞こえは良いが、国として兵士として聞くとそれは裏切り以外の何物でもなかった。

 「ああ、わかっている。でも!」

 彼女の目は本気そのものだった。このことがばれたら彼女の所属する兵団グッドオーラスにいられなくなる。そもそもベレティを操っている誰かがいることすら確信が持てていないのすら承知で。

 「正直見損なったよ。ロザリーの覚悟は伝わるが、それにうちの大切な従業員まで参加させようとするんだからね。普通の人ならば命までかかわってくる市場に巻き込むなって話だよ」

 ロザリーはあからさまに肩を落とす。

 そこでエレナが口をはさむ。

 「そう肩を落とさないでください。普通の人ならの話ですよ」

 ロザリーは話がよく見えなくなってきたのかふと顔を上げ俺とエレナのほうを見る。

 俺は人差し指をたてロザリーに提案する。

 「一つだけ、条件を付ける。その条件がのめればエレナを連れてってもいい」

 ロザリーは見る見るうちに顔が明るくなり「あぁなんだってする!」と言い切った。

 「俺を連れていけ」

 ロザリーはぽかんと口を開けていた。

 エレナはやっぱりそういうと思いましたよと心なしか頬が赤くなっていた。

 「ちょ、ちょっと待て」

 「なんだよ」

 「被害は最小限に抑えるとはいっても戦場だぞ」

 「自分の命くらい自分で守れるさ」

 ロザリーはまだ納得がいっていないようだった。彼女に納得してもらうにはどうしたものかと考えていると会話に割り込む形でエレナが口をはさむ。

 「ロンドなら大丈夫ですよ。彼は私より強いですから」

 エレナの顔は完全に俺を信用しきっている顔だった。

 「・・・そうか、わかった。ただ、絶対に前戦にだけは出るな」

 これだけは約束だ。とロザリーは立ち去った。

 「・・・はぁ、どれだけ信用ないんだよ。俺は」

 とにもかくにも。

 「エレナさっきはありがとうな。お前のおかげでロザリーを納得させられた」

 「いえいえ、こちらこそ私のために・・・」

 と頭を下げた。

 「ん?ちょっと聞きたいんだが」

 「はい、なんでしょう」

 さっきの会話でエレナはとっさに会話を合わせてくれたんだろうけど、妙に私より強いという単語が引っかかる。まるで俺の正体を知っているような・・・。

 「俺たちってどこかで昔あったことあるか?」

 そう聞くとエレナの顔が見る見るうちに赤くなっていった。あ、鬼の形相だ。やばい。フライパンを持って近づいてくる。

 「待って!なんで怒ってるの!ってか、今どこから出した!そのフライパン!」

 カンッ!

 「っっっっっってぇぇぇぇええええ!」

 思いっきり殴られました・・・なんで?

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