死してなお英雄を読む

河野 礼拓

第1話 「ようぇーじゃねーか!!」

 怪物:「おい、聞いたか人間どもがまた戦争を始めるらしいぞ」

 神撃手:「らしいですね。なぜ同じ人種で争うのか我々には理解しがたいのですけれど」

 勇者:「人とはそういうものだ」

 怪物:「ははは!お前がそれを言うのか。元とはいえ人間だろう」

 勇者:「そもそもこの世に魔物なんぞがわかなければ勇者すら生まれなかったし、俺も人間を捨てずに済んだ」

 怪物:「湧かなければ?我が同胞を虫みたいに言ってくれおって」

 神撃手:「まぁまぁ、そのくらいにしてくださいよ。あなたたちの争いはもう見飽きました。やるならよそでやってください。ほこりが舞います」

 怪物:「あ? あぁそうだったなお前らはいつも遠距離からチクチクと相手をいたぶる、まるで腰抜けのような戦い方しかできないもんなぁ」

 神撃手:「ほほう、前言撤回です。ここでやりますか?」

 怪物:「腰抜けどもがどこまで戦えるか試してやるよ」

 破滅王:「やめんか、各国の強者どもがみっともない」

 怪物:王様よぉ、いなんでいつも大事なところで止めるかねぇ」

 神撃手:「私に対する侮辱を許すつもりはないですが、王がいうなら仕方がない」

 勇者:「どちらにせよ俺たちは王様には逆らえないからな」

 破滅王:「まぁ、私とて主らをまとめることしかできんからな。この体は私たちのものではない。意識だけでも生きているだけでありがたいと思うしかないのだ」

 無名の怪物:「どうせ体主のことだ。大戦争を見て過ごすことなんてできないだろ!、手か巻き込まれなしと困る!、平和なままじゃ体がなまってしょうがない」

 勇者:「安心しろ、お前が呼ばれることはない」

 神撃手:「怪物は少々暴れすぎるからな」

 破滅王:「どちらにせよ何が起こるかわからん、各自いつ呼ばれてもいいよう準備をしておけ」



 

 「働きたくなーい」

 「では今月の給料下げておきますね」

 「うぐっ」

 とある日の夕方店内の喧騒が静まり返り客層が落ち着いてきたころ。俺がカウンター席に座り、机に向かって覇気のない言葉をついているとキッチンのほうから冷たい言葉が返ってきた。

 「エレナ、君はいつも冷たいな」

 「当たり前のことを言っているまでです」

 顔の表情はあまり変わらず、普段からいまいち何考えているのかわからないこの女性は

名をエレナートという。背丈は170いっていないくらいで、すっきりと背が高いという言葉がしっくり来るような体つきをしており髪色は濃紺色の髪が肩の高さくらいに切りそろえられている。なんというか大人のお姉さんって感じできれいな人だ。初めて見たときは俺も思わず見惚れてしまったほどに。

 まぁ、黙っていれば。の話だが。彼女はどういうことか、この店で働き始めてから今日に連れてだんだん俺に当たりが強くなっている。

 ほぉ~んと「黙ってれば美人なのに」あっ、俺は慌てて口を手で覆う。そのまま恐る恐るキッチンのほうを見ると。「ギロッ」とにらみと少々の魔力を利かせた目つきでエレナがこっちを見ていた。

 「ねぇ、エレナ俺って君になんか恨みを買うようなことしたかな?」

 「いえ、何も」

 なんか一層にらみが強くなった。こわい。

 「あ、そ、そう? じ、じゃあいいんだけど」

 「いいって何がですか?私のどこかに不満があるんですか?」

 怖さで軽く胃のあたりが痛くなってきたので。退散しようと会話を濁してもエレナが追撃してくる。

 あ、これ逃がしてくれないやつだ。そう思ったとき、ふと気になる会話が聞こえてきた。

 「ロザリーフランカって、あの討伐隊の?」

 「そそ、でさそのロザリーフランカが直々に強者を探してるんだよ」

 入口の近く、丸いテーブルを囲んで若い男たちが声を抑えて会話をしていたが、そもそも店自体はあまり大きいほうでもないのでしっかりと会話が聞こえてきた。

 現在この国では人口が激減している。原因は定かになってはいないがその中の一つに医療関係の問題があった。この国の医者が少ないから多くの病を治せない。単純な理由だ。人口の激減に様々な問題がこの国に襲い掛かったが、一番の問題は兵市の数の低下。数十団体とあったこの国も数年前すべてが解体された。そこでもともと兵士だった中で最も強いと言われた強者もしくは有能な者たちを集め、この国で最も最強な団体として作られたのが討伐隊{グッドオーラス}だ。その中でも最も実力、名声が高い者たちが五人いるその中の一人がロザリーフランカという。

 「ロザリーフランカが強者を探している?」

 なぜ?単純な疑問が沸いた。

 この国は二十日前程に敵国であるベレティナ大帝国からの宣戦布告を受けた。ベレティナ大帝国とここアトラス王国との戦争はこの国で大戦争と呼ばれていた。ただ。

 「へぇ~、でもさそもそも兵士の数は置いといて、兵力的にはこっちが勝ってるんだろ?」

 俺が疑問に思っていたことを男がつく。そうだ敵の兵士の数三万人に対してこちらの兵士は千六百人ほど、三分の二にも満たない。単純な武力だけだったら、圧倒的に数が多い法がかつだが魔導士、剣術士の人間が加わってくると話は別だ。魔導士とは生活魔法ではなく戦術魔法、つまりは魔法で直接人を殺すことのできる魔法を使えるもののこと。剣術士とは魔法を直接敵に使うのではなく自分の武器に直接付与をして敵を殺す魔法。これらを使えるものがいるだけで兵士の強さは数倍にも膨れ上がるのだ。

 男たちの話は続く。

「圧倒的力を見せつけたいとか?」

「その先は俺も知らねぇよ」

「お偉いさまが考えることだしなぁ」

「お偉いさまねぇ」

「まぁどうでもいいんだけどな。貴族だの少し特殊な魔術が使えるだけで優遇された女だからな」

 兵士たちもいい気分ではないだろうよ。と付け足し、男達が席を立った途端。凍り付くように固まった。

 「げっ、ロザリーフランカ・・・」

 そこには、男二人が凍り付くこともわかるほど冷たく驚異的なにらみを利かせたロザリーフランカが立っていた。あれはエレナよりきついかもな・・・。

 「店長」

 「ひぃ!ん?どうした」

 急にエレナから声がかけられ一瞬志向が読まれたかとびっくりした。

 「どうしたじゃないですよ。しごとしてください」

 「あぁ、すまんすまん」

 とロザリーフランカと見知らぬ男たちのほうを見る。男たちのほう震えあがっているじゃないか。

 「まぁまぁ、お客さん。おひとりさまですよね。お席に案内しますよ」

 ギロッ。邪魔するなと言わんばかりにロザリーフランカはこちらにもにらみを利かせてきた。だが俺にはきかん。なんたってうちでは魔力を込めてまでにらみを打ち込んでくるやつがいるくらいだからな。 

 ロザリーフランカは一瞬「はっ」となって睨むのをやめ、「お願いしよう」と言ってきた。

 彼女がカウンターに着くと同時に水を出す。

 「ご注文はどうなさいますか」

 「強いお酒を頼む」

 「わかりました」

 酒が好きなのか意外だなと思いながらこの店で一番強い酒を出す。

 ロザリーフランカは「ふんっ」と息を吐くと、一口飲んだ瞬間、バタンと机に突っ伏した。

 「ようぇーじゃねーか!!」

 どれだけ強いといってもこの店にはさすがに一口で酔うほどのものはない。酒に弱いにもほどがあるだろう。こいつは後で後悔するタイプだな。とはいえロザリーフランカはその後ちまちまと飲み続け何とか一杯目を飲み終わると。

 「もう一杯!」

 まだ飲むらしい。明日に響くぞと思いながら少し度数を弱めた酒を出す。ロザリーフランカがまた一口飲む。ん?どうやらアルコールを薄めたのに気づいたらしい。こちらににらみを利かせていたのでカウンターに行く。

 「どうかなさいましたか?」

 「さっきのとちがう」

 「お客様、相当お酒に弱そうだったので明日に響かないよう、度数を少しだけ下げさせていただきました」

 ギロロ。とさっきの倍以上の威力でにらんでくる。俺は営業スマイルを忘れない。なぜなら店長だから。しばらく見つめあうと。緊迫が溶けたようにロザリーフランカがだらぁとなる。

 「もぉ~、何なのだおまえわぁ」

 「ど、どうかなさいましたか?」

 急な変わりようで思わず戸惑う。

 「私の会話の途中で割り込んできたと思ったら、にらみも聞かないし」

 ロザリーフランカがうっすら赤く染まった頬を膨らませながら言う。

 まてまて、男たちを睨んでたのあれ会話だったの?だとしたら恐喝かなんかしてたのか。

男たち今にも漏らしそうな勢いだったぞ。

 「一体お前何者なんだ」

 「この店の店長ですが」

 「本職は?」

 「店長です」

 「戦闘経験は?」

 「ありません。ただの店長です」

 じーっと見ている。怖い。なんか疑われてるし。しばらくするとあきらめたのかロザリーフランカは目をそらし、コップを見て。

 「気遣い、感謝する」

 ロザリーフランカは何かを考えこむようにしてお酒を飲んでいる。その姿をじっと見る年齢は二十前後だろうか全線で戦っているからだろう。体は見てわかるほどに質感がよく引き締まっている髪の色はバラのように明るく赤い。長さは腰ほど。前髪の隙間から見える瞳は髪色とは対極に見えるほどに深みのあるきれいな水色。身長はさっき見たところエレナより少し低いくらいか大体165ほどだろう。何を考えているのかはよくわからないが、静かに座っていると、まるで絵のような、どこか違う世界にいるような印象だ。

 先ほどの言葉を思い出すと、意外と素直なんだな。とも思った。それはそうと先ほどの男たちの会話が気になったので直接聞いてみることにする。

 「あなたはロザリーフランカで間違いはないですか?」

 「あぁ、そうだが。逆に知らなかったのか?」

 「え、えぇ。そうだろうとは思っていましたが」

 「つくづくおかしな奴だ」

 ロザリーフランカはそういうともう一口お酒をあおる。

 「さっき男たちから気になる話を聞いたんですが・・・」

 「ん?あぁ、私が強者を探していることか」

 「さすが、察しがよくて」

 「いっておくが前戦のことは何も言えんぞ国家機密だ。知りたければ町の掲示板でも見に行け二日もすれば最新の情報が掲示されるだろう」

 「まぁまぁ、そういわずに」

 ロザリーフランカはムッとする。

 「客とはいえかしこまりすぎだ。睨みも聞かなければ威圧も通じない。そんな奴にかしこまられると馬鹿にされている気がして逆に腹が立つ。私のこともロザリーでいい」

 さすがにそれは断ろうとしてあきらめる。酔っ払いは何を言っても耳を貸さない。敬語はやめろということか。あまり乗り気ではないが、この国の居酒屋の店主みたいにしてみるか。

 「じゃあ、これでいいか?」

 「あぁ、構わん」

 だいぶ砕いた口調になったが、構わないらしい。俺は話を続ける。

 「で、さっきの話なんだが」

 「何も話せないといっただろう」

 「まぁまぁ、そんなこと言わずに」

 俺は機嫌を取るように、お酒を注ぐ。

 「だからそんなこと言ってもっ!」

 ロザリーフランカが何かを言いだそうとした途端。

 「そうなんだよ、ロザリーフランカ様は本当に優遇されすぎなんですよ」

 「大体女で魔術が使えれば誰でも上にいけるんですか?ってトップに聞いてやりたいぜ」

 「ははは、ばかそれはいいすぎだろうー」

 チャラチャラした男三人が入店してきた。

 おいおい、そんな話をすると本人が黙っちゃいないぞ。と彼女を見ると肩を震わしていたそれは怒りでじゃなくどこかはかなく目じりに涙を浮かべて。

 「おい、大丈夫か」

 慰めようと彼女の肩に触れると自分のほうに魔力が流れてくる。

 「これは!まっずぃ・・・」

 体から力が抜け、意識が遠のいていく・・・。遠くからエレナの声が聞こえてくる。いつの間にかカウンターを見上げる形になっていた。あぁそうか俺、倒れたのかと今頃になって気づく。

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