06 &α

「あ、あれ」


「あ」


「どうしたんですか。お店の前で。もしかして、おつまみ買い忘れたんですか?」


 がまん。できなかった。


 抱きついてしまう。


「おっ、と。よいしょ。いたくないですか?」


 そして、泣き出してしまう。


 弱いわたし。


「うう」


 ずっと。


 泣きたかったのに。


 普通だったから。


 ひとりだったから。


 ためてたものが、あふれて、どうしようもなくなってしまった。


「うぐ」


 でも。


 すぐに、我に返る。


 普通だから。そういう、簡単に羽目を外すようには、できてないから。


「ごめんなさい。おにぎりがおいしくて、つい」


「あはは。おにぎりが美味しくて泣かれるのは初めてです」


「すいません。ほんとに。ごめんなさい」


「おいしかったんなら、よかったです」


「ごめんなさい。ほんとに。おいしかったって伝えたかっただけなのに。帰ります」


 踵を返す。


 もうなんか、はずかしいのと、泣きたいのと、なんかもう、わからない。よくわからない。


 とにかくここを離れて。


 ひとりに戻らないと。


「もしよければ、また作りますよ」


 ひとりに。


 戻れなくなる。


「うわあああん」


 反転して。


 やっぱり、抱きついてしまう。


 そして泣く。


「2回目ですね」


「ごめんなさい。わたし。ひとに優しくされたことがなくて。ごめんなさい」


「僕は、女性のかたに抱きつかれたのが初めてです。しかも2回」


「あっ。その。ごめんなさい」


「いいえ。僕は、けっこう勇気を出して、どきどきしながら渡しましたから。おにぎり。想いが伝わって、よかったです」


「そう、ですか」


「なんか、照れますね?」


「次は3つください」


「3つ」


「お酒のおつまみとか入れてください」


「えっ、いきなり難題」


「好きですっ」


「僕もですっ」

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