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 部屋を飛び出した。


 走る。


 あのお店。ビールを買ったお店に。


 そのままお店に入ろうとして。


 自動ドアの前で。立ち止まる。


 わたしは、いま、何をしようとしているのだろう。


 いい歳の大人が。


 ひとからおにぎりをもらって、おいしくて。うれしくて。それで、またここに来て、会って。会ってどうするんだ。


「子供みたい」


 嬉しくて、つい。


 ばかみたいなことしちゃったな。珍しく、酔ったのかもしれない。まだビール呑んでないけど。


 きっと。


 おにぎりをくれたやさしいひとには、わたしとは違う人生があって。きっと、恋人とかもいて。ちゃんとした青春があって。そういう人なんだ。たぶん。


 わたしみたいな、何もしないで、普通だけが取り柄の人間には、願っても、遠く届かないところのひとだから。


 このまま、帰ろう。


 おにぎりのお礼は、今度、口頭で伝えればいいや。少し高めのチョコレートとか渡して彼女さんに疑われたりするのも、というかそもそも、そういうの、わかんないし。


 これからも、ひとり。


 ビールだけが、私の恋人。

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