第9話 ゴブリンエリート
「私はまだ魔力に余裕がありますからね!! 《飛撃》ッ!」
みのりがゴブリンエリートの首に向けて斬撃を飛ばす。
しかし、流石は単体でもC級のモンスターというべきか。余裕を持って弾かれた。
みのりにだけ俺の声が聞こえるように《隠蔽》を調整する。
「無闇に手札を見せるな! 相手の強さを考えて戦うんだ!」
「ふぇ!? は、はいっ!」
「この距離で相手が鎧を着てるなら斬撃より打撃の方が有効だぞ! 少しでもノックバックさせて時間を稼いでくれ!」
「わかりましたっ!」
みのりが短剣を握ったまま、拳を振り抜く。そのまま体を止めず、その場で舞うように蹴りを数発放った。
《飛撃》は攻撃を飛ばすスキル。それによってみのりの打撃や蹴撃がゴブリンエリートを襲う。
「グギャ!?」
「ギギァ…!」
ゴブリンエリート達の
大したダメージは入らなかったが、打撃というのは斬撃と違って相手を吹き飛ばす効果もある。それがノックバックだ。
ゴブリンエリートは吹き飛びはしなかったものの、自分を襲った衝撃に警戒心を高めたようだ。
「《ギギガギググ…》ギギィ!」
ゴブリンエリートの魔法使いが《土魔法》に似たスキルを発動する。
大きな岩がみのりに向かって放たれた。
「っ!《瞬足》っ!」
《瞬足》により行動速度を早め、岩からかろうじて逃れる。
それと同時に、先程俺が渡した爆符を《飛撃》を使った打撃に乗せて飛ばす。
「先輩!避けてくださいねっ!」
「あぁ! 大丈夫だ!」
「《起爆》ですっ!」
ゴブリンエリートのタンクに向かって放たれた打撃は容易く止められたものの、直後に爆符が爆発してその周囲に衝撃と高熱をもたらした。
「ギギァ…!」
「ギギィ!」
「ギ…」
「ギギガァ…!」
爆符が完璧なタイミングで爆発したことにより、盾で守られた魔法使いとヒーラー意外の全てに多大なるダメージを与えた。
特に三体の剣士、その中でも盾役の近くに居たゴブリンエリートは立っているのがやっとだ。
「今ので爆符は打ち止めです!仕掛けます、《瞬足》!!」
爆符によって多大なダメージを与えた今がチャンスと踏んだみのりが急加速して接近戦を仕掛ける。
しかし、魔法使いとヒーラーが杖を掲げスキルを使い迎撃と回復をしようとする。
「ギギィ!《ギギガギググ…》ギギ!!」
「《グギャアギギィ》…!」
みのりの顔に、ほんの少しだけ恐怖が浮かんだ。
◇
────…その時をずっと待ってたんだ。
ゴブリンエリートの後衛たちは、常に周囲を警戒していた。故に俺の奇襲が完璧に決まるタイミングを伺っていたのだ。
「グギャア!?」
「ギギャ…!?」
魔法使いとヒーラーが同時に倒れる。
俺が2体の喉を切り裂いたからだ。
スキルを使うその瞬間だけ、ゴブリンエリートの後衛は警戒を怠った。それが致命的な隙となったのだ。
しかし、ゴブリンエリートの前衛は気付かない。
何故なら俺がヒーラーと魔法使いの存在を隠蔽した上で殺したからだ。
こうすれば血しぶきや攻撃の音、悲鳴すら認識されなくなる。
俺の持ちうる最強のスキルによる恩恵だ。
「ぐっ…、そろそろか」
常に魔力を消費する《隠蔽》、1度で大量の魔力を消費する《転移》このふたつをペースを考えずに使った。
俺の魔力はもうほぼ空だ、はやく休め、そう身体が言っているのが分かる。
この場合、立ち位置的に俺とみのりで残りのゴブリンエリート達を挟み撃ちできる。
だが、相手は前衛。今のヒーラーと魔法使いのように奇襲で敵を倒しきることが出来ないかもしれない。
「そうなったら俺とみのりが各個撃破されるな…」
小説やドラマでもよく聞く「冒険者は冒険するな」という言葉が頭をよぎる。
ここは一旦合流するのが最前だろう。
《隠蔽》が切れるまであと10秒。
みのりの場所へと走り出し、その間にいるゴブリン達に軽く攻撃する。
倒しきる攻撃は弱点を正確に狙ったり力を込めたりと、どうしても隙が生まれる。
だが、適当に見えている皮膚を切り裂くだけならば走りながらでも余裕で行える。
「グギャア…!」
「ギギャ!?」
剣士2体に、足と腕にそれぞれ攻撃しみのりと合流する。
ゴブリンエリート達は不可視の斬撃に困惑しているようだ。
「おかえりです!」
「ただいま。 ここからが正念場だ」
ヒーラーと魔法使いは倒した。
だが、俺はもうスキルを使う魔力が無い。みのりも大ダメージを与えた爆符を使い果たしている。
未だ2対4。
1度のミスが死に繋がるという緊張感で手が震える。
「グギャ?」
「ギギィ!」
「「ギィァアアアア!!!」」
俺の《隠蔽》が解ける。
今まで向けられていなかった剥き出しの殺意が、滝水のように俺を襲った。
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日本で冒険者やってる俺、ヒーローは諦めてヴィランとして正義を貫く。 Kneeさん @Knee-3
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