第8話 ゴブリン 2

「逃げるぞっ!」


 突然の転移に困惑している男に喝を入れる。

 急がなければすぐに大量のゴブリンに追いつかれる。


 みのりが先頭で《索敵》、男を挟んで俺が殿しんがりとなる。

 全員で走り出す。


「た、助かった! ありがとう!」


 血まみれの男が礼を言う。

 近くで見ると、身に纏う血のほとんどが返り血であることに気が付いた。大きな怪我は腕の裂傷くらいだろうか。いや、骨折もしているな。


「何があった?」

「Bランク冒険者だけでパーティーを組んで下層を攻略していたんだが、一体だけ異常な強さのゴブリンが居てな…。そいつをあと一歩で倒せるって時に、急に光だして進化したんだ」

「モンスターが進化ですか…」


 モンスターの進化は珍しくはあるが確認例は多い。

 ゴブリンキングは進化から発生する例が少なく、自然発生といいどこからともなく出現するのが通常だ。

 進化によってゴブリンキングになったとするならば、進化するまでの経験がある分戦闘力が段違いに上がる。


「あぁ。進化した途端にゴブリンが100体近く集まってきて…。持ってたアイテムやスキルを惜しみなく使って逃げようとしたんだが、盾役タンクがやられちまって…。」

「なるほどな。そこから一気に崩されたのか」

「ああ、俺は魔法攻撃がメインの後衛だったから所持アイテムでギリギリ逃げ出せたんだ。まあ、あんたらが居なかったら死んでたがな」


 そう言い、惨劇を思い出したのか顔を青くし震える男。

 走るペースは意外と早いため、すぐに追いつかれることは無いだろう。


 ちらりと後ろを向くと、ゴブリン達がちょうど爆符を通り過ぎている所だった。


「衝撃に備えろ! 《起爆》ッ!!」


 ドガァーン!!!!っという爆音と共に熱風が背中を押す。

 今ので13枚、65万円も飛んだと考えると頭が痛い。


「《索敵》っ! 近衛兵ゴブリンエリート以外はほぼ全滅です!」

「あんたらばっかに頼る訳にはいかねぇな! 《炎魔法》炎虎えんこ!!」


 おお、《炎魔法》だ。

 属性魔法と呼ばれる魔法は、その属性の物質を操る。

 また、自分たちで技名を付けることでイメージを固め、名前を呼ぶことで定型の魔法を即座に発動できるやうにするのがセオリーだ。

 今の炎虎えんこも、詳しくは《炎魔法》で炎の虎を生み出し敵に攻撃しているものだ。《炎虎》というスキルは存在しない。


「グギァ…!!」


 瀕死だったゴブリン達が炎虎によって倒されていく。

 ゴブリンエリートにもそこそこのダメージを与えたようだ。


「ギァア゛ア゛!!!」


 今の攻撃により怒ったのだろう。

 ゴブリンエリート達がとてつもない速さでこちらに走りだした。


「ちっ、このままじゃ他の冒険者がやられるな」

「ここは新人冒険者も多くいますから巻き込まれれば多大な犠牲が出ます!」

「俺の魔力はさっきの炎虎で打ち止めだ。後は殴るか逃げるかしかできねぇ…」


 男は歯を食いしばりながらゴブリンエリートを睨んでいた。

 仲間を殺されたのに仇を打つことができない、その事が悔しいのか。


「俺が時間を稼ぐ。みのりとおっさんは上層に行って増援と避難勧告を頼む」

「な、無茶です!」

「そうだぜ!あのゴブリンはマジで強ぇ! 1対6じゃ瞬殺だぞ!」


 2人が必死に訴えているが時間が無い。

 ゴブリンエリートはもうすぐ目の前だ。


「私も戦います!おじさん、他の冒険者の事はお願いします!」

「な、おい!」


 みのりがおじさんを強く押す。

 それと同時に小型のナイフのような投擲武器をゴブリンエリートに投げた。


「ギギィ!」

「こっちです!」


 みのりにヘイトが集まり、ゴブリンエリート達が足を止めた。

 突っ込んで来ないのはこちらの手の内が分からないから慎重になっているということだろう。


 こうなってしまえばみのりはもう逃げられない。

 俺と一緒に残るという強い意志を今の行動で示した。


「仕方ない。おっさん、他の冒険者は頼んだ。出来ればS級の冒険者を呼んでくれ」

「あんたら…。分かった、任せてくれ! 死ぬなよ!!」

「はいっ!」


 時間を無駄にしない為、最低限の会話で行動を開始する。

 おっさんがみんなを逃がすまで時間を稼がなければいけない。


「ギギィ!」

「ギガァ…」

「グギャアッ!!!」


 6体のゴブリンが陣形を組んでじわじわと距離を詰めてくる。

 ヒーラーと魔法使いが1ずつ、剣士が3、盾役が1の計6体だ。


「みのり、俺がヒーラーを倒すから少しの間気を引いてくれ」

「分かりました!」

「頼んだ。《隠密》っ!」


《隠密》を発動し、短剣を片手に走り出した。

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