第6話 短剣使い

「ギギィッ!」


 ゴブリンの気配は徐々にこちらに近付いてくる。


 俺はスキルではなく自前の技術で索敵を行っている。

 スキル以外の技術でも、努力すれば努力していないスキル所有者を超える力を得ることは可能なのだ。


「短剣の攻撃力の低さを補うにはどうすればいいと思う?」

「えぇ、連撃ですか…?」

「まあ確かに手数で補うのも手ではある。だが体力の消費が激しいし、《隠密》との相性も悪いだろう」

「はい…」


 こちらの攻撃力が弱いなら、相手の防御力が薄いところを攻撃する。

 これが答えだ。

 この答えをそのまま教えずに、まずは俺が行動で見せる。


「よく見ておけよ」

「はい!」


 ゴブリンが遠くからこちらを見ている。

 どうやらゴブリンがみのりに気付いたようだ。


「ギギィッ!!!」

「…っ!」


 剥き出しの殺意にみのりが息を飲む。

 自分より格下の相手とは言え、殺意を向けられることに恐怖を感じるのは生物として普通のことだろう。


 みのりも短剣を構える。


「あっ、《索敵》!」


 みのりが《索敵》を使う。

 俺が言ったことを理解し、常時発動している《索敵》を意図的に強めに発動したようだ。


「周囲に他の敵はいません!」

「いい心がけだっ!」


 俺はゴブリンに向かってかけ出す。

《隠蔽》を弱めに設定し、気配を薄くするだけに留める。みのりが俺を視認した。


「走り方を見ろ」

「はいっ」


 俺は自分の技術で足音を消す。

 これは足を特殊に運ぶことで可能な歩行方法だ。


「ギギィ?」


 ゴブリンが自分を見ないみのりに疑問を浮かべる。

 その直後、俺はゴブリンを間合いに入れた。


「いけっ!」


 みのりが声を出す。

 確かに間合いに入れたが、まだだ。


 さらにもう一歩、ゴブリンの背後を取る。

 これでみのりは俺の動きが見やすくなったはずだ。


「──っ」

「グギャ…」


 一閃。

 ゴブリンの首の動脈を、浅く斬り裂く。

 無駄に力まず、全身の筋肉を上手く使って攻撃力を高めた攻撃だ。

 ただ単に振るよりも、全身の筋肉を意識して使うことで2倍にも3倍にも攻撃力が上がる。


「すごい…」


 ゴブリンが光の粒に変わりながら倒れる。

 たった一撃。最初の奇襲で戦闘を終わらせる。これが俺の戦い方だ。


「短剣使いは気配を消して、隙を見せた敵に致命傷を与える。これはソロでもパーティーでも変わらない、重要な戦い方だ」


 周囲の警戒を怠らず魔石を拾う。

 みのりは今の1戦からどこまで学べただろうか。


「今の歩行技術と身体の使い方教えてください!もっと強くなりたいです!」

「いい向上心だな」


 今日一日でみのりがどこまで強くなるのか、とても楽しみだ。


 ◇


「グギ──」


 まるで舞うように近付き、無駄の少ない斬撃で敵を屠る。まさに「蝶のように舞い蜂のように刺す」という言葉が当てはまる。


 うん、やばいねこの子。

 まさに天才だ。

 俺の技術をスポンジのように吸収し、さらに自身に合わせてアレンジしている。

 実力だけならBランクに差し掛かっているのでは無いだろうか。


「天才って、ほんとに居るんだな…」

「? 何か言いました?」

「いや、なんでもない」


 今は午後5時。ダンジョンもかなり下層まで潜ってきている。

 今はみのりが1人でゴブリンの群れを壊滅させた所だ。


「にしても、ゴブリン多くないですか?」

「あぁ、元からゴブリン多めのダンジョンだったが少し多すぎるな」

「なんか嫌な予感がします」


 嫌な予感。

 本能が何か危険を感じている。


「一応スマホでこれに似た現象が無いか調べてみます!」

「いや、索敵はみのりの方が得意だろう。俺が調べるから索敵は頼んだ」

「へっ、わ、はいっ!!」


 俺が索敵をみのりに頼んだことが嬉しかったようで、ピンクのアホ毛がぴょこぴょこしている。


 少しだけ、力んでいた身体と心が和んだ気がした。

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