第5話 みのりの戦闘
「《隠密》」
みのりが小さくそう呟く。
その瞬間に気配が一気に薄くなる。
最初から視界に捉えていた俺はみのりを認識することが出来るが、そうでない者はその存在を簡単には認識できなくなっている。
これが《隠密》の効果だ。
足音などは隠せないし、派手に動けば相手に認識されてしまう。
故に相手に奇襲をかける時や、逃走しつつ隠れる時に使われる。
「あー…」
みのりは足音を殺しながらゴブリンに近づいて行く。
確かに足音を殺そうとはしているが、さっそく改善点が見つかった。
そろりそろりとゴブリンへと近づいて行くみのり。
ゴブリンは自分に迫る驚異に未だ気付いていない。
みのりの間合いにゴブリンが入った。
「せぁッ!」
気合いの入った声と共にみのりが短剣を振り抜く。
大振りなその攻撃は、しかし直前で《隠密》が解けた為にゴブリンによって軌道を逸らされる。
胴体を斬り裂こうとした斬撃はゴブリンの腕を斬り裂くだけに留まった。
「グギッ…!?」
「やばっ…!」
みのりが顔に焦りを浮かべる。
しかし、ゴブリンが痛みに怯んでいる今がチャンスと踏んだのだろう。
「《瞬足》っ!」
《瞬足》を使い、急加速したみのりはゴブリンの背後を取る。
そのまま連撃を背中に見舞う。
「ギギァギィッ!!!」
ゴブリンが背中にくらった衝撃を活かしてみのりから距離を取る。
しかしその姿はもう立っているのが限界といった様子だ。まさしく、瀕死。
「逃がしません!これで終わりです!《飛撃》っ!」
そう叫び、短剣を振り抜く。
完全に間合いの外で斬撃を繰り出したみのりだが、その短剣から鋭い光が飛び出す。
《飛撃》は文字通り攻撃を飛ばすスキルであり、近距離戦闘を行う冒険者は喉から手が出るほど欲しいスキルでもある。
光る斬撃は真っ直ぐにゴブリンへと飛んでいき、その身体に致命傷を与えた。
「ギギィ…」
「ふぅ…」
ダンジョン内で死んだモンスターは光の粒となって消える。
その場にドロップ品を残して、肉や血は跡形もなく消えるのだ。
今回はビー玉くらいの大きさの魔石をドロップした。
これをギルドで売れば1つ1000円で売れる。
こんな弱いモンスターが落とす、こんな小さな魔石でもこの価格である。
冒険者が儲かる理由がわかるだろう。
「星夜先輩!どうでしたかっ!」
みのりが魔石を拾ってからこちらに駆け寄ってくる。
そんなみのりをよそに、俺は自分のスキルを1つ発動した。
「《隠蔽》」
「え…!?」
みのりの視界から星夜が消える。
ちょうどいい機会だ。短剣使いの戦い方を見せてあげよう。
俺を見失ったみのりはきょろきょろと辺りを見回している。
「せっかく《隠密》を使ったなら攻撃の直前に声を出すな」
「ふぇ!?」
「短剣は攻撃力が低い。だからみのりはゴブリン1匹倒すのにあそこまで苦労した。まあ、身体の使い方が未熟っていう問題もあるけどな」
「は、はぁ…。え、なんで消えるんですか!?」
俺は静かに短剣を抜き放つ。
俺はスロットが5つに、所持スキルが3つ。
《隠蔽》、《転移》、《幻影》である。
訳あって後ろの2つはゴミスキルであるため、俺は基本的に《隠蔽》と自分の身体能力を活かしてBランク冒険者まで登り詰めた。
ちなみに《隠蔽》も《転移》も《幻影》も所有者が俺以外にいないユニークスキルであると考えられているが、スキルの数が膨大な為ユニークスキル持ちは割と結構いる。
《隠蔽》はみのりが使った《隠密》の上位互換だ。
《隠密》が気配を薄くするものであれば、《隠蔽》は認識自体をかき消す。
《隠密》は「隠れて見えなくする」ものだが、《隠蔽》は「見えているが認識できなくする」ものである。
ここら辺は難しいから理解できない人もいるだろう。俺もまだ完全には把握しきれていない。
常時魔力を消費するしその消費量も多いがその分メリットも大きい。
足音も消せるし匂いも消せる。派手に動こうが攻撃しようが視認されない。
所持スキルなどの情報ですら《隠蔽》することができる。はっきりいってぶっ壊れだ。
「…あっ」
「やっと気付いたか。スキルにばかり頼らず自分でも索敵するようにした方がいいぞ」
「はい…」
みのりの《索敵》にやっとゴブリンが引っかかったようだ。
先輩として、改善点を教えてあげよう。
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