第321話 裏切り
そして、放課後になった。
俺は真奈美の方を見る。
「じゃあ、今日は帰るね」
真奈美は何事もなかったかのように俺にそう言ってくる。
「……あ、あぁ。じゃあ……」
何か言わなければいけない……そう思っていたが、結局、俺は引き止めなかった。真奈美はそのまま何も言わずに教室から出ていってしまった。
「あれ~、本当に良かったのかな~?」
しばらくしてから、俺の背後からねちっこい声が聞こえてくる。
「……何がだ?」
俺は振り返る。満面の笑みの外川がそこに立っていた。
「良かったの? 前野さん、帰っちゃったけど?」
「……別にいいだろ。今日は……」
「なんで? なんで一人で帰らせちゃったの?」
……意味などない。俺がただ、単に……真奈美と帰りたくなかったのだ。
なぜ、真奈美が今日遅刻してきたのか……。いや、たぶん深い意味などないのだ。
だが……完全にそれが証明されているわけではない。100%、何もないとは言い切れないのである。
「で、どうするの?」
外川がニヤニヤしながら俺にそう聞いてくる。
「……今帰ったら、真奈美に追いついてしまう気がする」
俺は黙って立ち上がった。そして、教室を出る。
「じゃあ、時間を潰そうよ」
「……一人で潰す。お前についてきてくれ、なんて言っていない」
「そう? その顔……どう見ても言っているように見えるよ?」
そう言われても、俺は……否定できなかった。今の状況で一人でいたくない……そう思ってしまった。
そして、外川はそれを完全に見透かしているようだった。
「あの教室、行こうよ。この前行ったさ」
「……は? なんで?」
「いいじゃない。どうせ、誰もいないからさ~」
そう言って外川は教室を出ていった。俺は……何も考えずにその後をついていってしまった。
外川の後をついていく間、罪悪感が俺を苛む。よく考えれば……一体俺は何をしているのだ?
俺は明確に真奈美を裏切っているじゃないか。今からでも遅くない。真奈美の後を追いかけたほうがいい……!
俺はそう思って外川に何も言わず踵を返してそのまま去ろうとした……その時だった。
「どこ行くの?」
外川が俺の方を掴む。俺は小さく悲鳴をあげてしまった。
「……やっぱり、真奈美を追いかける」
「無駄だよ。今から行ったって。それに、後田君さぁ……何か勘違いしてない?」
「……何がだ?」
「前野さんのこと、裏切っているって思っている?」
「……否定はしない」
俺がそう言うと外川は目を丸くしたあとで、面白くて仕方ないという感じで笑い出す。
「……何がおかしい」
「あはは……いや、だってさぁ……。別に後田君は、まだ何もしていないじゃん。それなのに、裏切っているって……あ。もしかして……前野さんのこと、裏切りたいの?」
俺のすぐ近くまで顔を寄せてそういう外川。俺は視線をそらした。
「まぁ、なんでもいいよ。とにかく、今から引き返すのは許さない。ほら。来なよ」
外川にはなぜか……圧力のようなものがあった。俺は仕方なく、その後をついて、無人の教室に向かったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます