第319話 混迷

 どうして真奈美がいないのか……俺はそれだけのことだというのに、とても不安な気分になってしまった。


 ……いや、単純に遅刻しているだけだろう。真奈美だって遅刻することくらいあるだろう。


 俺は自分にそう言い聞かせながら席につく。ふと、俺は教室を見回してしまう。


 視線の先にあったのは……中原の姿だった。中原は横山と話している。


 何を話しているのかはわからないが……なぜか、中原はひどく疲れているように見える。


 まぁ、あまり話さなくなってしまったが、横山と中原はうまく行っているようだった。


 ……そうだ。中原は横山のことが好きなのだ。だから、別に真奈美と話していたからといって不安になることはない。


 そう自分に言い聞かせて、俺はそれ以上考えないようにした。


 そして、始業のチャイムが鳴る。それでも真奈美はまだ来ていなかった。


「じゃあ、授業始めますよ~」


 先生が教室に入ってきた……その時だった。すぐ後ろの扉が思いっきり開く。


「ん? 前野さん? ギリギリですよ」


「はぁ……す、すいません……」


 真奈美は肩を上下させながら、教室に入ってきた。俺は思わず真奈美のことを見てしまう。


「じゃあ、席について」


 真奈美は先生にそう言われて席につく。チラッと見ただけだが……なんだか、真奈美はひどく疲れているようだった。


 真奈美と視線があったが、真奈美は一瞬だけ申し訳無さそうな顔をしたあとで、何も言わずに、席についてしまった。


 ……とりあえず、後で昼休みでにも、真奈美に、なせ遅刻したのかを聞いてみよう。


 そもそも、真奈美が遅刻すること自体、珍しいことなのだから。


 俺はなぜか益々不安になる。真奈美が疲れている様子なのも心配だが……それ以上に、俺の知らない何かが起きている気がするのだ。


 と、視線を感じてそちらを見る。見ると、外川がニヤニヤしながら俺のことを見ている。


 なんだか心を見透かされているようで、腹が立ったので、俺はすぐに視線をそらしたのだった。

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