第318話 不在

 登校する間、とても嫌な気分だった。


 終始、外川はニヤニヤしながら俺のことを見てきているし……俺としてもどうすればいいかわからなかった。


 俺は思わずと側の方を見てしまう。


「……なんだ? さっきから」


「ん? なんでもないよ~。ただ、後田君のことを見ているだけ」


「……なんで俺のことを見ているんだ?」


「そりゃあ~、見たいからに決まっているでしょ~?」


 嬉しそうにそういう外川。俺はふと、修学旅行のことを思い出してしまう。


「……修学旅行のときも思ったんだが、なんでお前……、俺に構うんだ?」


 思わず俺は思ったことを聞いてしまった。外川はキョトンとした顔をする。


「言ったでしょ~? 僕と君は同類なんだ、って。同類のことは気にするに決まっているでしょ~?」


「……だから、その同類だってのがよくわからないんだ。俺とお前……、似ているか?」


「うん。似ているよ。二人で並んでいるとお似合いってくらいね」


 そう言って、外川は俺になぜか右手を差し出してくる。


「……なんだ。その手は」


「手。繋ごうよ」


「……はぁ? なんで?」


 思わず意味がわからなすぎて、なんで、と聞いてしまった。


「だって、修学旅行の時、繋いだじゃない」


「……あれはお前が半ば無理やり繋いできたんだろ? それに、俺は今、真奈美と――」


 そこまで言って、俺は言葉に詰まってしまう。昨日の写真のことが、頭に浮かぶ。


「前野さんと……何?」


 俺の頭の中を見透かしているかのように外川は嬉しそうに微笑む。俺は怒りを覚えたが……それ以上は何も言えなかった。


「まぁ、いいよ。今はね。きっと、そのうち、後田君の方から手を繋ごうって言ってくると思うよ?」


「……そんなことは、あり得ない」


 俺は即座に否定すると、外川は嬉しそうにしながら、俺のすぐ近くに寄ってくる。


「いや、もしかすると、手を繋ぐよりも先のことも……あるかもね?」


 俺はそれ以上は何も言わずに、学校への道を急いだ。


 ただ、俺としては教室に入るのが気まずかった。


 もしも、仮にだが……真奈美の方が先に登校していたらどうする? 俺は真奈美ではなく、外川と一緒に登校してきたということが、真奈美自身にもわかってしまう。


 ……いや。今日はいつもの時間に来ていない以上、真奈美は俺よりも遅く登校してくる……、そう確信しながら、俺は教室に入る。


「僕と君で一緒に教室に入ったら、前野さん、どう思うかな?」


 またしても、嬉しそうにそういう外川。俺は回答せずに、真奈美はいないと思いながら、そのまま教室に入った。


「……いない」


 と、教室に入ると、やはり、真奈美はまだ来ていなかった。


「ありゃ~、残念だなぁ~」


 そう言ってニヤニヤしながら外川は自分の席につく。


 真奈美はまだ来ていないようだが……どうしてこんな遅いのだろう?


 俺はなんだか、無駄に不安になってしまうのだった。

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