第313話 困惑

「……おい。どこまで行くんだ?」


 外川は階段を上がり、あまり人の来ない上層の階まで上がった。


「まぁまぁ。前野さんが心配なのはわかるけどさ。大事な話だからさ~」


 相変わらずの調子で外川はそう言う。どうにも、その大事な話、というのが気になる。


 そして、外川は何かを探しているようだった。どうやら、空き教室を探しているようである。


「お」


 と、少し先を進んだ先に、空き教室があった。外川は遠慮することなく、その部屋の中に入っていった。


「ほら。こっちだよ~」


 外川がそう言って部屋に入るように促す。なんだか嫌な予感しかなかったが、俺は仕方なく部屋の中に入った。


 部屋は……物置に使われている教室のようだった。鍵もかかっていないところを見ると、ほとんど使われていないのだろう。


「よし、と」


 と、背後で、カチャ、と音がした。


「……おい」


「ん? どうしたの~?」


 外川がニヤニヤしているが……俺はその時、明らかに不味さを感じる。


「……なんで、鍵を閉めた?」


 俺がそう聞くと、外川は表情を変えず、ただ、笑っている。少し、外川のことを怖いと感じてしまった。


「大事な話だからね~。誰にも邪魔されたくないし」


「……そうか。で、大事な話って、なんだよ?」


 俺がそう言うと外川は黙っていたが……次の瞬間、いきなり、俺の方に走り寄ってきた。


「……は?」


 俺が意味もわからないままに困惑している間に……俺は、外川に正面から抱きつかれる形になってしまった。


「……え? ちょっと……お前……」


「……冷たいじゃないか。後田君」


 そう言って外川は俺に抱きついたまま、俺の方を上目遣いで俺を見る。


「僕達、手を繋いだ仲じゃないか? それとも、僕のこと、嫌いになったの~?」


「……え、いや、お前……だ、大体、俺は真奈美と――」


「本当に、付き合っているの~?」


 外川にそう言われて俺は思わず言葉に詰まる。俺が言葉に詰まったのを確認してから、外川は俺から離れた。


「フフッ……困っているね、後田君。大丈夫。もうすぐ困ることもなくなるからさ」


 外川がそう言ってスマホを取り出した。俺の嫌な予感は益々大きくなっていったのであった。

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