第312話 大事な話

 そして、放課後になった。


「湊君。帰ろう」


 真奈美は放課後になるや否や、そう俺に言ってきた。


「……あぁ。そうだな」


 このところ、真奈美と帰るのは完全に日常になっていた。


 ちょっと前の俺なら信じられないが……まぁ、付き合っているのだから、それも普通なのだろうけど。


「ちょっといいかな~?」


 と、俺と真奈美が教室から出ようとすると、背後から声が聞こえてきた。


 聞き覚えのある声……振り返ると、外川がニヤニヤして俺たちを見ていた。


「……なんだ?」


「いや~。ふたりとも随分仲が良いなぁ~、って思ってね」


「……用事がないなら、帰るぞ」


「あ~、ごめんごめん。そういうつもりじゃないんだって」


 と、俺が威嚇しても外川は特に気にしていないようで、むしろ、真奈美の方に視線を向ける。


「前野さん、ちょっと後田君を借りたいんだけど、いいかな~?」


 外川はニンマリと微笑んだままで、真奈美に訊ねる。


 真奈美は特に動揺した様子もなく、外川のことを見る。


「うん。別にいいけど」


「流石だね~。やっぱり、信頼関係っていうのかな~? そういう強さを感じるよね~」


 俺は思わず真奈美を見てしまう。真奈美は俺に優しく微笑む。


「校門で待っているから」


「……え、おい、ちょっと……」


 真奈美はそう言って、そのまま先に行ってしまった。


「あはは~。置いてかれちゃったね~」


「……お前のせいだろうが」


 俺は思わずそう言いながら、恨みがましく外川を見てしまう。


「おいおい。酷いじゃないか~。僕と君は手をつないで歩いた仲なんだよ? 前野さんよりも先に、ね」


「……お前が半ば強制的にしてきたんだろうが」


「そうだっけ~? まぁ、いいや。とにかくさ、前野さんが後田君をあっさり貸し出してくれて良かったよ~」


 ニヤニヤ笑いながら、外川は俺にそう言ってくる。


「……で、何の用事なんだ?」


「ん~……あんまりさ、ここではし辛い話だから……人がいない所に行こうか?」


「……は? し辛い話?」


 俺がそう聞くと、外川は邪悪に微笑む。


「君と前野さんに関わる、大事な話だからさ。ね?」


 ……なるほど。どうやら、俺の悪い予感がこういう形で実現したようだった。

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