第304話 潜入
結局、風呂から出て部屋に戻っても、まるで落ち着かなかった。
ずっと、俺は前野に対して、どうすれば誤解を解くことができるのかを考え込んでしまっていたのだ。
「おい。さっさと抜け出そうぜ」
と、ヒソヒソとした声が聞こえてくる。すると、しばらくしてから、部屋の何人かが足音を抑えながらも、そのまま部屋から出ていってしまった。
どうやら……最終日ということで、皆部屋を抜け出して他の部屋に合流しているようだ。
まぁ、先生たちも今日ばかりは多めに見るということなのだろう。よほど馬鹿騒ぎしなければ問題もないわけだ。
かといって、俺には関係のない話で……俺はまたしても考え込んでしまった。
俺が考え込んでいる間にも一人、また、一人部屋から抜け出していく。
おそらく、そろそろ俺一人になってしまったようだった。どうにも、友達がいないというのは悲しいものだ。
と、部屋の扉がゆっくりと開き、誰かが入ってきた。先生……ではないように思える。
そして、足音はこちらに向かってきて……俺の布団の隣で止まり、そのまま何者かは布団に入ったようだった。まぁ、誰かが部屋に戻ってきたのだろう。
その時だった。その何者かの足が、俺の足に当たった。
「……ちょっと」
寝ぼけているのか、俺が注意しようとしても、隣の人物はどんどん俺の布団に足を伸ばしてくる。それどころか、俺の布団に入ってこようとしているようだった。
「……おい。こっちは俺の布団だって」
「知ってるよ」
……は? え……ちょっと待て。今の声は――
俺は布団から出て電気を付けようとしたが、いきなりそのまま足を捕まれ、布団の中に引きずりこまれる。
「……お前……何して……」
「フフッ。びっくりした?」
そう言って、薄暗い布団の中で悪戯っぽく微笑んでいたのは……浴衣姿の前野なのであった。
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