第301話 罠

 それからなんとかギリギリの時間で、外川と一緒に宿に戻ってきた。先生から少し怒られたが、それ以外は特に問題はなかった。


 外川はむしろ、なぜか先生に怒られているときもヘラヘラしていた。本当にわけがわからない。


 俺の方はというと、前野のことが気になった。先に換えしてしまったのもあるが、なんとか外川を連れ帰ってきたことを早く伝えたかった。


 かといって、女子の部屋に乗り込んでいく勇気は……俺にはちょっとない。そもそも、前野がどの部屋にいるのかもわからないし……。


 先生から一通りのお叱りを受けて、俺と外川は開放された。


「う~ん……もうあとは夕ご飯だけかぁ。修学旅行、意外と早かったね」


「……お前のせいで、最後の最後で微妙な気分になったけどな」


「んも~。そんなひどいこと言わないでよ~。僕と君の仲じゃないか~」


 そう言って、外川が俺の方をポンポンと叩いてくる。


「……馴れ馴れしく触るな」


「フフッ。今更何言っているの? あれだけ強く手を握りあった仲だしさぁ。これくらいは軽いものでしょ?」


 ニヤニヤしながら外川はそう言ってくる。俺としても……無理でも手を振り払うべきだったとは今更ながらに思う。


「……とにかく、俺はもう部屋に戻るから」


「え? もう戻っちゃうの?」


「……当たり前だ。もう用はないだろ?」


「え~……いいの? あっちの前野さんのことは?」


「……は?」


 そう言って、外川が指差す先には……前野が立っていた。全然気付いていなかったが、どうやら、ずっと宿屋のロビーで待っていたようだった。


「んふふ~。じゃあ、僕は部屋に戻るから。楽しかったよ。湊君」


 わざとらしく前野に聞こえるようにそう言ってから、外川は去っていった。


 そして、残された俺は……前野と対峙せざるを得ないのであった。

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