第300話 違いの証明
そして、俺と外川は手を繋いだまま、宿屋に戻ることにした。
それにしても……どうしてこんな思いをしなくてはいけないんだ。せっかく前野が俺のことを好きだと言ってくれたのに……。
「今、どうしてこんな目に合っているんだろう、って思っているよね?」
嬉しそうな声で、外川はそう言う。俺は思わず外川のことを睨んでしまう。
しかし、俺が睨むとますます嬉しそうに外川は俺のことを見る。
「フフッ……でも、内心、嬉しいんじゃないの~?」
「……何がだよ」
「だって、こういうこと、前野さんとはしていないでしょ?」
……言われてみると、していない気がする。
いや、でも、前野がはっきり好きだって言ってくれたのはつい最近だし……。
俺が悩んでいると、外川はそれまでよりもさらに嬉しそうな顔をする。
「へぇ~。君は、前野さんにはしてあげていないのに、僕には手を握らせちゃったんだ~」
……そういう言われて俺は愕然とする。今すぐ手を振り払おうとすると、さらに強く外川が手を握ってきた。
「別にいいでしょ。だからって、君が流されやすい最低な人間ってことにはならないよ」
そう言ってから外川はなぜか俺の手をニギニギと揉んでくる。奇妙な感触で俺は思わず戸惑ってしまった。
「だって……僕達は元々そういう最低な人種なんだから。ね?」
……流石にだめだと思った。俺は少し強めに手を振り払った。
「あぁ~……乱暴だなぁ」
「……俺は、お前とは違う」
その言葉に説得力はない。いや……自身がないからだ。
「じゃあ、証明してみせてよ」
「……は?」
外川はまるで挑むように俺のことを見てくる。
「僕は全力で、君が僕と同類であることを証明するよ。例え、前野さんの前でも」
「……俺はどうすれば証明とやらができるんだ?」
俺がそう言うと外川はニンマリと微笑む。
「僕と違う人間だってこと。君が前野さんのことを心のそこから好きだってこと、証明して見せてよ」
そう、言うだけ言って、外川はそのまま先を行ってしまった。
俺は納得できない気分のままに、そのあとを付いていきながら……これからどうすれば良いのかを考えてしまっていたのだった。
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