第280話 隣の前野さん

 俺は、窓の外の流れ行く景色をぼんやりと見ている。


 なるべく、隣の前野のことは見ないようにしている……というのも、前野が隣にいるというのは、やはりなんか違和感があるからだ。


「後田君」


 かといって、いつまでも窓の外を見ていることもできない。前野から呼ばれれば、前野の方を向かなければならない。


「……なんだ?」


 俺は前野の方を見る。


 改めて、隣というかなり至近距離で見ると、前野真奈美は普通に美少女だ。


 普通に美少女という表現は適切ではない……かなり美少女だ。


「後田君?」


 俺は思わず前野の顔面偏差値の高さに、見惚れてしまっていた。


「……いや、なんでもない」


 前野の声でなんとか我に返る。


「……で、なんだ?」


「これ、食べない?」


 そう言って前野は俺に弁当箱を差し出してくる。中にはサンドイッチが入っていた。


「……昼飯にはまだ早いと思うが」


「でも、お腹へっているかな、って思って」


 ……言われれば減っている。周りを見ても、皆自由にお菓子とか食べているし……食べても問題ないだろう。


「……じゃあ、貰う」


 俺はそう言って、サンドイッチの一つを手に取る。中身はハムだった。


「食べてもらって良かった。朝早く起きた甲斐があったな」


 嬉しそうにそう言う前野。これ……わざわざ前野が作ってくれたのか。


「……あー……なんか、ありがとう」


「どういたしました。まだあるから、好きなだけ食べてね」


 そう言われたので、俺はもう一つ手に取る。前野は満足そうに俺が食べているのを見つめている。


 美少女に見つめられながらサンドイッチを食べながら考えたことを、俺は前野に聞いてみる。


「……そういえば、端井と外川は、来てるんだよな?」


 他のグループは割とグループで集まって座っているのに、やはり、俺の周りには外川と端井の姿が見えない。


「来てると思うよ。約束したし」


「……約束? 何を?」


「行きの新幹線と帰りの新幹線では、私と後田君の邪魔をしないこと、って。代わりに、あっちに着いたら、私はあの二人がやろうとすることの邪魔をしない……って約束」


「……はぁ? いや、邪魔も何も、俺達グループなんだから……」


 俺がそう言うと後田はいきなり、前野は俺の膝に手を置いてきた。


「ねぇ。後田君さえよかったら、着いた後も二人で行動しない?」


「……いやいや。お前、駄目だろ。グループで行動しろって話なんだから……」


 俺がそう言っても、まるでわがままを言う子どものような目で前野は俺を見てくる。そんな目で見られると断りにくくなるが……。


「……駄目だ。着いたらグループで行動するからな」


 俺がそう言うと前野は不満そうに頬を膨らませる。正直……前野の誘いを受けようと思ったが……ギリギリで理性を保てた。


「……というか、勝手にそんな約束してたのか」


「もしかして……端井さんの隣に座りたかった?」


 急に前野が心配そうな顔で俺に聞いてくる。


「……いや、別に。この席で良かったよ」


 俺がそう言うと前野は嬉しそうで満足そうに微笑んだ。


 それにしても……到着した後も修羅場が待っていそうな感じだということは理解できたのだった。

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