第279話 非日常の始まり

 それから、数日が経った。


「えー……今から新幹線に乗るけど、はしゃぎすぎないように」


 先生の注意をまともに聞いている生徒は……ホーム上には誰もいないようだった。


 新幹線……俺の人生の中ではあまり乗ったことのない乗り物だ。


 それに、今からクラスメイトと一緒に乗るとなると……さらに非日常感が強まる。


 もっとも、非日常性が強いから修学旅行なのだが。


「基本的に、行動グループで固まっておいてね~。付いたら最初は団体行動だけど、お昼以降はグループ行動だから」


 ……先生の言う通り、昼間では団体行動だが……昼以降は各自グループでの行動である。


「後田君」


 と、ごった返しているホームの後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……前野」


 いつのまにか、前野が後ろにいた。


「席、隣に座ろうね」


「……あ、あぁ」


 前野は笑顔を向ける。直球で隣に座ろうと言われた……そして、俺は考える間もなく許可した。


 程なくして、新幹線がホームに入ってくる。扉が開くと同時に、生徒達が新幹線の中に雪崩込んでいく。


 ……といっても、一応、グラスごとに乗る車両は決まっているし、席も生徒数分あるのだ。


 新幹線の中に、俺と前野は同時に入っていった。そして、なぜか、前野は車両の一番広報を目指す。


「……おい。どこまで行くんだ?」


「ここ」


 前野はそう言って、車両の一番後方の席を選んだ。


「ここなら、後ろに誰もいなくて、ゆっくりできるでしょ?」


 ……ゆっくりできるかどうかは知らないが……既に他の席は他の生徒が座ってしまっている。


 そういえば、端井と外川はどこに行ったのだろう? 特に外川はこういう時、絶対絡んできそうだったが……。


「後田君。座ろうよ」


「……あ、あぁ。そうだな」


 前野にそう言われ、俺は前野の隣の席に座ったのだった。

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