第278話 住む世界

 横山への確認が終わった後、俺は席に戻っていた。


 前野は……教室へは戻っていなかった。


「どうしたのかな~? なんか、寂しそうな顔してない~?」


 この面倒くさい喋り方……俺は視線をだけを動かして声のしたほうを見る。


「……なんだ? 外川」


 見ると、外川がニヤニヤしながら俺のことを見ていた。


「いや~、後田君が寂しそうな顔をしているからさ~、心配になっちゃって~」


 どう見ても一ミリもそう思っていなさそうな顔である。俺は外川の言葉を聞き流した。


「……用件がないなら、話しかけないでほしいんだが」


「え~、ひどいよぉ~、僕たち、もう友達だろ~?」


「……お前と友達になった覚えはないんだが」


「まぁまぁ~、横山さんにフラレちゃって、寂しい思いをしている後田君のことを慰めてあげようって思っていたわけだよ~」


 俺はギョッとして外川のことを見る。外川は嬉しそうに俺のことを見ていた。


「……お前、盗み聞きしていたのか?」


「違うよ~、耳に入っちゃっただけだって~」


「……どうでもいいだろ。そんなの」


「でもさ~、酷いよね~、僕だって、絶対、横山さん、本気で後田君のこと、好きだって思ってたよ~」


「……別に寂しくなんてない。元々、横山とは住む世界が違うんだ」


 ……そう。だから、横山が中原のもとに戻っていったのも当然と言えば当然なのだ。


 でも……確かにあそこまで仲が良かったように思っていたのに……。


「前野さんも、実はそうだったりして」


 と、いきなり耳元で囁かれて俺は思わず立ち上がってしまった。ニンマリと嬉しそうな顔をする外川。


「だってそうだろ~? 君のことを、からかっているだけかもしれないよ~?」


「……少なくとも、俺はお前よりは、前野のことを信用しているよ」


「え~、酷いなぁ~。僕だって、後田君のことは嫌いじゃないのに~。それに、僕や端井さんは、少なくとも君と同じ世界の住人だと思っているよ~」


 そう言って急に興味を無くしたかのように、外川はそのまま去っていってしまった。


 ……住む世界が同じか、違うか……改めて俺は自分の立ち位置を意識してしまった。


 そして、外川が言った言葉……前野もそうかもしれない、という言葉はどうにも、俺の頭の中にいつまでもこびりついていたのだった。

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