第256話 奇妙な感覚
それから、俺と前野は一緒に下校することにしたのだが……それにしても、奇妙な感覚だった。
これからとんでもないことが起きる……それだけは確信しているのに、妙に俺は落ち着いていた。
むしろ、俺は色々と考えてしまっていた。
そういえば……前野と二人で帰るのは初めて、なわけで。
そういえば、知り合った最初の頃は、前野と一緒に映画を見たりしていたわけだが……今考えるとよくあんなことができたなと思う。
おそらく、今同じことをやれと言われても……あまりにも気恥ずかしくてできないだろう。
「ねぇ」
と、前野の声が聞こえてきた。俺はゆっくりと顔を前野の方に向ける。
風が出てきたようで、前野の黒く、長い綺麗な髪が揺れている。
既に日も沈み、薄暗くなってきているというのに、妙に前野の顔だけはっきりと見ることができた。
「……なんだ?」
「愛留ちゃんの告白、OKしたの?」
真剣な視線が俺を見つめてくる。思わず目を反らしてしまいそうだったが……なんとか耐えた。
「……いや、していない。というか……ノーカンになった」
「ノーカン? 告白は……なかったことになったの?」
俺はややこしいと思ったが、前野に横山が一体どういうつもりで俺に告白してきたのかを説明した。
前野は黙ってそれを聞いていた。
「そっか。まぁ……愛留ちゃんらしい、かな」
特段、驚いている様子もなく、前野はそう言った。
それきり、前野は黙ってしまった。
風が段々と強くなってきたようだった。
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