第257話 愛してる

「……というわけで、俺は別に横山に告白されたというわけではない……ということになったんだ」


 俺は沈黙に耐えかねて、話を提供してしまった。


 しかし、思い返してみると、なんだか間抜けな話だ。


 ただ、実際、横山が告白してきたときは気分が昂揚してしまったのは事実なわけであるし……。


「後田君は、愛留ちゃんに告白されて、嬉しかった?」


「……なんだそれ。嬉しいというか、今となってはなんだか虚しいというか……」


「告白されたその時は、嬉しくなかった?」


 前野が立て続けに質問してくる。俺はその勢いに少し気圧されながらも、


「……そりゃあ、まぁ、嬉しくないか嬉しいかで聞かれれば……」


「嬉しい?」


 俺はどう反応すれば良いかわからなかった。まるで前野に試されているようだったが、正直に肯定することにした。


「……嬉しかったよ」


「ふーん。じゃあさ……私に告白されたら、嬉しい?」


「……は? お前、何言って――」


 前野が立ち止まり、俺のことをまっすぐに見てくる。


 俺は理解した。前野はなのだ。


 そして、俺はそのに対して、明確な回答をしなければならないのだ、と。


 一陣の風が俺と前野の間を通り抜け、前野の黒髪が綺麗に揺れる。


「好きだよ。後田君。愛してる。私と付き合って」


 ……風は、急に止んだようだった。

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