第255話 予感

 流石になんとなく気まずい気持ちだった。


「あー……えっと、気不味いよね……?」


 横山は申し訳無さそうに俺にそう言う。まぁ、横山も俺と同じ気持ちだったというわけか。


「ウチは……今日、一人で帰るね。ホント……ごめんね。真奈美にもちゃんと謝るから」


 そう言って横山は手を振りながら足早に去っていってしまった。


 ……まぁ、なんとか、横山が落ち着いてくれたみたいで良かった。これからが大変な気もするが……。


「終わった?」


 思わず背後から聞こえてきた声に俺は背筋を伸ばしてしまう。そして、ゆっくりと振り返る。


「……前野。なんで、お前……」


 振り返ると、そこには、前野が柔らかな笑みを湛えて立っていた。


「後田君。待ってたよ」


「……待ってた、って……お前、今までの俺と横山の話……聞いてたのか?」


 俺がそう言うと前野はミステリアスに微笑む。


「今日は一緒に帰ろうよ」


「……へ? お、お前と……!?」


 さすがの俺も驚いてしまった。ついに前野の方から一緒に帰ろうと言ってきた。それは……俺にとってとても特別なことだった。


「駄目?」


「……いや、一緒に帰ろう」


 俺のその返事を最初から確信していたのか、そうでないのか、嬉しそうに前野は微笑んだ。


 その笑顔を見た時、俺は、これから今度こそ、間違いなく、何かが起こると予感したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る