第254話 無かったことに

「はぁ~……真奈美になんて謝ればいいんだろう~……」


 横山は酷く悩んでいた。こんなに悩むのならば言わなければ良かったのに……とは言わないでおいた。言ってしまったのだから仕方がない。


「……あのさ、横山」


 しかし、俺は一つだけ確認しておきたいことがあった。


「ん? 何?」


「……つまりさ、さっきの告白も……その、なし、ってことでいいんだよな?」


 俺がそう言うと横山は目を丸くする。それから、とんでもなく恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。


 それから、しばらくの間教室内を沈黙が流れる。それから、申し訳無さそうに横山が笑う。


「あー……うん。その……あ、あれだけ気合込めて言っておいてなんだけど……ね。その……後田君が言ったとおり、真治とのことをきちんとしないと、ね……」


 ……まぁ、なんとなくだが、こういう回答だと思っていた。


 あれだけ幻想的な光景の中で告白された結果……これか。でも、なぜか俺は……少し安心していた。


 告白されるということは、つまり、回答しなければならない……でも、しなくても良いということになった。


 そのことで、俺はなぜだか……安心してしまったのだった。


「……わかった。まぁ……気にしないよ」


「ホント……その……ごめん……」


 横山は本気で申し訳無さそうにしていたので、俺もそれ以上は言わないようにしておいた。


「……とりあえず、帰るか」


 既に前野も帰ってしまったわけだし、俺たちも帰るしか無いわけだ。


 扉を開けて教室を出たのだった。

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