第253話 先延ばし

 それからしばらくの間、横山が泣き止むまで待たなければならなかった。


 俺としてもめちゃくちゃ居心地が悪いわけで……そもそも、どうして急に横山は泣き始めてしまったのだろうか……。


「うぅ……なんか……ごめん……」


 ようやく横山は泣き止んだ。


「……どうしたんだ? その……良ければ話してくれないか?」


「……さっきも言ったように……ウチ、真治と……一応、付き合っている感じになっていたんだけど……真治、なんというか……すごい、束縛するタイプみたいで……」


「……束縛する、タイプか」


「うん……ウチが自分以外の誰かと話したりするのをすごく嫌がるんだよね……ウチ、真治のそういう所、全然知らなかったから……」


 ……なるほど。幼馴染の知らない側面にショックを受けたというわけか。俺としても中原がそういうタイプとは思わなかったので、驚いているが。


「それで……後田君がこの前話しかけてきたときにあんな態度をとって……流石にウチも怒っちゃって……」


 それで、俺と前野が横山の家に訪ねていったわけだが……あれから中原との間に何があったのか、結局よく聞いていないのだ。


「……それで、中原になんて言ったんだ?」


「さっき言ったとおり……真治とは少し、距離を置きたい、って……」


「……中原はなんて?」


「……ごめん、って一言だけ言ってそれきり一度も喋ってないよ」


 どうやら、かなり横山と中原の件は深刻な問題になっていたようだ。


「ウチ……こんなこと、誰にも話せなかったから……」


「……そうか。だけど、話すべきだったかもな」


 本当に話すべきだったのかどうかはわからないが……そう言うしかなかった。


「……それで、さっき端井と真奈美があんなこと言い出すから……思わずウチもカッとなっちゃって……どうしよう、後田君……ウチ、真奈美に酷いこと言っちゃったし……」


 横山はかなり反省しているようだった。


 確かに結構衝撃的なことを言っていたし、あの前野でもショックを受けていたようだった。


「……前野にはとりあえず謝ったほうがいいんじゃないか?」


 俺がそう言うと横山はゆっくりと頷いた。


「……あとのことは、それから考えよう」


 ……とりあえず、横山と中原のこと、そして、横山が俺に告白してきたことも先延ばし案件とすることとしたのだった。

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