第246話 楽しい時間

「ごめんね、待たせちゃって」


 それから少し立って、制服に着替えた前野が戻ってきた。


「……お前、その顔」


「あ……あはは。メイク、落とす時間なくって……」


 そういう前野の顔は、幽霊のメイクのままだった。


 かなり白いのだが、元々、前野は肌が白いので、そこまで変……むしろ、いつもより綺麗に見えてしまった。


「……いいのか? メイク落とさなくて」


「うん。だって、早く後田君と学園祭、回ってみたいし」


 少しテンションが高い前野。学園祭ということもあるのだろうが……なんだか、いつもとは違う感じだった。


「……じゃあ、行くか」


 そして、俺と前野は学園祭を回ることになった。他のクラスの出し物、メイド喫茶や、軽音部のライブ……およそ、俺が一人では絶対に回らないものを二人で見て回った。


 前野は終始楽しそうだった。それはとても良かった。


 そんな前野を見ている俺は……それはそれで楽しかった。前野が楽しんでいるのを見るだけで、俺も楽しかった。


 ただ、ふと、そんな気持ちになっていいのだろうか、と俺自身に問いかける。


 というか、そんな気持ちになっているということは、俺は前野のことを――


 そこまで考えて、俺は横山が言っていたことを思い出す。


 今日俺は前野に……でも、いつ、どうやって切り出せばいい?


 そんなことを考えていると……いつのまにか学園祭の時間はどんどん過ぎていってしまったのだった。

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