第245話 祭り

 そして、学園祭の日となった。


「……暇だ」


 受付で待機している俺は、目の前を行き交う人混みに聞こえないように小さく呟いた。


 我がクラスのお化け屋敷は……努力した割には人の入りが悪かった。


 まぁ、あまり忙しすぎても嫌だし……この程度の人入りが丁度よいのだろう。


「後田君」


 と、背後のお化け屋敷のセットから声が聞こえてきた。


 見ると、真っ白な肌の白い着物を来た美少女が俺を呼んでいる。


 おそらく幽霊役なのだろうが、正直……ちょっと怖いくらいに綺麗だったので驚いてしまった。


「……前野。どうした? 何かあったのか?」


 無論、本物の幽霊ではなく、前野である。


「幽霊役、もう交代してくれる子が来たから」


「……来たから?」


 俺がそう言うと、前野は少しムッとした顔をする。


「約束、忘れたの?」


 約束……そうだ。俺は前野と学園祭を回る約束をしたのだった。


「……いや、忘れていない」


 俺がそう言うと前野は満足そうに微笑む。


「じゃあ、衣装、着替えてくるから、出られるように準備しておいてね」


「……いや、待て。俺の方はまだ受付の交代役が――」


「ウチがやるから」


 と、そう言って現れたのは、横山だった。


「……いや、でも横山は受付役をやる必要は――」


 俺がそう言おうとすると、横山は俺の方に顔を近づけてくる。


「真奈美と、学園祭、回るんだよね?」


 有無を言わさない圧力で、横山は俺にそう言った。


「……はい」


「よろしい。じゃあ、行ってきなよ」


 笑顔でそういう横山。結局、俺は外堀を完全に埋められ、前野と学園祭を回らざるを得ないことになったのであった。

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