第212話 ベタなアイデア

「え……じゃあ、結局、何も決まらなかったんですか?」


 端井は信じられないという顔でそう聞いてくる。俺は小さく頷いた。


「……仕方ないだろ。そもそも、俺はこういうのやったことないんだから……」


「でも、横山さんとか、こういうのやったことないんですかね?」


 端井も同じようなことを考えていたらしい。


「……横山も俺と前野と同じような反応だったな。別に意見は言ってくれなかった」


「そうですか……じゃあ、難しいですね」


 端井はなぜか真剣に悩んでいた。別に端井は係ではないのだから、心配してくれなくても良いのだが。


「……でもまぁ、まさか後田さんが係になるとは思いませんでした」


 そう言って、端井はなぜか少し嬉しそうに俺に向かってそう言った。


「……お前、面白がっているだろ?」


「そんなことないですって。でも、後田さんには何かないんですか? アイデア」


「……ないね。そもそも、俺は学園祭とかあんまり好きなほうじゃないし」


「私は……お化け屋敷とか、喫茶店とか……ベタですけど」


 ……確かにベタだが、たぶん、今度クラスに向けて聞くとそんな意見が大量に出てくるだろう。


 そうなると、それらのベタなアイデアの中から多数決を取ることになりそうだ。


「あ……でも、後田さんは、喫茶店とかがいいんじゃないですか?」


「……なんで?」


「いや、喫茶店は喫茶店でもメイド喫茶とか……女子のメイド姿が見られますよ」


 端井はそう言ってニヤニヤしている。


 そう言われて俺はふと前野のメイド服姿を想像してしまうが……すぐにそんな雑念は振り払った。


 まぁ、見てみたいか見たくないかでいえば……ちょっと見てみたい気もする。


「なんですか? もしかして、私のメイド姿とか想像しちゃいました?」


 端井がそんなことを聞いてきた。


「……いや。全然」


 俺がそう答えると端井は急に不機嫌そうになって黙ってしまったのだった。

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