第208話 不穏
そして、放課後になったが、俺たちは掃除が終るまで待機しなければならなかった。
隣の席を見てみたが……いつの間にか端井は帰ってしまっていたようだった。
「そういえば、学園祭って何をやるの?」
前野がいきなり変な質問をしてきた。
「……いや、俺が聞きたいよ」
「普通はクラスの出し物って、どんなものがあるの?」
……無難なところでいえば、喫茶店とか、お化け屋敷とか……そういうのだろう。
もっとも、別に実行係はアイデアを出すわけじゃない。何をやるかは、クラスメイト達全員に聞いて、良いアイデアを出してもらえば良い。
俺たちはそれを取りまとめ、実行できるよういに取り計らっていく……つまりは調整役なのである。
「……って感じだから、別に俺たちが何かを考える必要はない」
前野にはそんな感じで説明した。珍しく前野が真剣に俺の話を聞いていた。
「……で、わかったか?」
「うん。後田君にピッタリの役だってことがわかった」
「……俺が?」
「うん。だって、後田君、人の話を聞くの得意でしょ?」
前野にそう言われて、前野が俺のことをそういうふうに思っていたのだと、初めて理解する。
俺は別に人の話を聞くのが得意というよりも……ただ、自分の意見を言わないだけのような気がするが。
俺と前野が話していると、教室の掃除も終わっていた。
「……ん? で、肝心の横山は?」
教室の中に入って見回してみるが……横山の姿はなかった。
「だから……今日は無理だって」
と、横山の声が聞こえてきた。廊下の方だった。
「別にいいだろ? 実行係なんて真面目にやらないでさ」
もう一人は……中原の声だった。なにやら不穏な雰囲気で、横山と中原が喋っていた。それを俺と前野は教室から覗く。
「でも……今日、放課後残ってねって言っちゃったし……」
「は? なんだよそれ……愛留は、俺とアイツら、どっちが大事なわけ?」
横山は困り顔で視線を反らす……と、間の悪いことに、横山と視線が合ってしまった。
「あ……後田君」
と、同時に中原も俺の方に振り返る。
……即座に、不味い状況に引きずり込まれたと、俺は理解したのだった。
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