第209話 モノ

 中原が明らかに不機嫌そうな視線で俺のことを見ている。


 ……いや、俺は何も言っていないのだが、この感じだと、俺のことを見るのだけでも、中原は嫌なようである。


「横山さん」


 と、俺が困っていると横から前野が横山の名前を呼ぶ。


「今日、話し合うんじゃないの?」


 前野にそう言われて横山はキョトンとしていたが、ふと我に返ったようだった。


「そ、そうだよね! ほら! 分かったでしょ?」


 横山にそう言われると中原は大きくため息を付いて諦めたようだった。が、なぜかいきなり俺の方に近づいてくる。


「……おい」


 そして、俺の顔面近くまで顔を近づけてきた。


「……な、何?」


「愛留に何か変なことしてみろよ? タダじゃおかないからな。愛留は俺のモノなんだからな」


 捨て台詞のようにそう言って、中原はそのまま去っていってしまった。


「え……後田君、真治、今何か変なこと言わなかった?」


 横山が不安そうに俺のことを見る。


「……いや、別に」


 流石に今言われたことを横山に言うのは……なんだか横山に悪かった。


 それにしても俺のモノ、って……横山は別にモノじゃないだろうに。


「はぁ……ごめんね、ホント。じゃあ、話し合い、始めよっか」


 ほとんど誰もいなくなった教室で、ようやく俺たち話し合いを開始することができることとなったのであった。

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