第194話 食堂

「……で、なんで俺とお前は食堂に来ているんだ?」


 俺は隣にいる端井に訊ねる。端井は特に意に介さないという表情で俺を見る。


「そりゃあ、一緒にお昼を食べるためですよ」


「……俺は別にお前と昼を食べたいなんて言ってないんだけどな」


 俺がそう言うと、端井はムッとした顔をする。


「嫌なんですか。私とお昼食べるの」


「……お前こそ、嫌じゃないのか?」


 端井は目を丸くして俺を見る。それから少し考え込むように黙ったあとで恥ずかしそうに先を続ける。


「嫌じゃないですよ。別に」


 そう言って端井は券売機の方に行ってしまった。仕方ないので、俺もそれに続く。


 それから、俺たちはそれぞれで自分の注文した食事を受け取り、向かい合った状態で、無言のままに食べた。


「美味しかったですか?」


 食事が終わったあとで、端井は俺に聞いてきた。


「……いや、いつもの食堂のメニューって感じでしたけど」


「そうですよね。でも……もし、誰かがお弁当を作ってきてくれたらこれよりもっと美味しい食事ができると思いませんか?」


 端井は急にそんなことを言ってくる。お弁当……そういえば、前野が前に俺に弁当を作ってくるって言っていたような……。


「……まぁ、それはそうかもな」


「そうですよね? 後田さんも誰かのお弁当食べたいですよね?」


 なぜか急に迫るように言ってくる端井。俺は少し驚きながらも返答する。


「……まぁ、誰かが作ってきてくれたら、食べるかもな」


 すると、端井はなぜかニヤリと微笑んだ。望む回答が得られたようである。


「わかりました。では、私は教室に戻りますので」


 そう言って俺を置いて、端井は去っていってしまった。


「……なんなんだ。アイツは」


 意味がわからなすぎて、俺は呆然とするしかないのであった。

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