第190話 本心か否か
数秒が数時間にも思える時間であった。
長い時間が流れたように思えた……それくらい俺は呆然としてしまった。
「あの……聞いてます? 後田さん」
「……え? あ、え……えっと……いや、まぁ、聞いてたけど」
俺が明らかに動揺している感じでそう返すと、端井は満足そうに頷く。
「今の、本気にしたんですか?」
「……へ? え、お前……まさか……」
俺がそう言うと端井は口の端を釣り上げて意地悪く笑っている。
「さぁ? どう思いますか? 後田さん。今の私の言葉、本気か、どうか」
……この態度、どう考えても本気ではないだろう、と、普段の俺なら思っていたはずである。
そもそも端井は俺のことを嫌いだとはっきり言っていた。それに、端井は前野と仲良くしたいはずなのに、俺のことを邪魔だと思っていたからだ。
だから、今の告白はどう考えても冗談で、俺をぬか喜びさせるもの……ちょっと前なら俺もそう間違いなく確信していたと思う。
だけど……なぜかその時の俺は妙に冴えていたというか……おそらく、前野との一件でいつもとは違うカンのようなものが働いていたのだろう。
「……本気じゃないのか?」
俺はそう言ってしまった。端井は目を丸くして俺のことを見る。それから、急に恥ずかしそうに視線を反らした。
「ば……馬鹿なんじゃないですか!? 思い上がりも甚だしいですよ!」
そう言って端井はそう捲し立てて俺に背を向ける。
「か、からかっただけです! どうせ真奈美様と進展もないだろうから、哀れなアナタを馬鹿にしたかっただけなんです!」
「……そうか。それなら、なんか……悪かったな」
「まったくです! まったく……妙なところでカンが働きますね……」
「……なんか言ったか?」
「なんでもないです! とにかく! もう私は帰ります!」
そう言ってなぜか端井はそのまま去っていってしまった。
結局……アイツは俺の家の前でなんのために待っていたのかはわからずじまいなのであった。
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