第189話 闇夜の告白

 それから適当に前野と話して、その日は解散となった。


 帰り道、俺は前野との駐車場での出来事ばかりを考えていた。


 前野が言おうとしたこと、そして、俺自身が言おうとしていたこと……。


 俺はあの時、最後まで言うべきだったんだろうか。いや、どう考えても言うべきであっただろう。


 自分としても情けなかった。でも、言い訳をさせてもらうならば、俺はそもそも女の子と二人で夏祭りなんて行ったことがないのだ。


 おまけに……そういうことを言う準備など何もしていない。できるわけがないのである。


 と、何度も自分に言い訳しながら歩いていると、いつのまにか家の前までやってきていた。


「後田さん」


 いきなり背後から声をかけられて俺は思わず驚いてしまった。声のした方に振り返る。


「……端井。お前……」


 そこにはいつものように黒い服を着た端井が立っていた。夜だとその白い肌だけが浮かびあがって少し怖かった。


「……まさかとは思うが、進展があったかどうか聞くためにずっとここで待っていたのか?」


「いいえ。進展がなかったのはもう知っています」


「……お前、またどこからか俺と前野のこと見ていたのか。良い趣味しているな、ホントに」


 俺がそう言うといきなり端井は俺の方に向かって歩いてくる。俺は思わず身構えてしまった。


「……な、なんだよ」


「……です」


 蚊の鳴くような声で、端井は何か言ったようだったが、まるで聞こえなかった。


「……全然聞こえないんだが」


「……だから、好きなんです」


「……何が? 前野のことか?」


「違う。アナタです」


「……は? 何が?」


 俺がもう一度聞き直すと、前野はにらみつけるように鋭い視線で俺のことを見る。


「アナタのことが好きです。後田さん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る